第47話037「合宿二日目」



——合宿二日目


 この日はクラス対抗戦が行われる。


 一クラスは約十人から十五人いるので、一チーム五名ずつで組んで戦うことになる。また五名に満たないチームの場合は相手側が人数を合わせて戦う。なので基本全員参加となる。


「おはよう!」

「おはよう〜!」


 一階の大広間ではちょうど朝食を終えた生徒たちが歓談をしている。対抗戦までには少し時間がある為、二日目は比較的のんびりと寛いでいる。


 しかし、そんなのんびりマタ〜リしたこの広間で事件は起きた。


「ハヤト・ヴァンデラス」

「⋯⋯カルロ・マキャヴェリ」


 A組の副委員長⋯⋯いや、ティアラが抜け自動的に委員長職へと就任した四大公爵のカルロ・マキャヴェリがD組の生徒が集まるテーブルへと足を運んできた。


「カルロ!」

「おはようございます、ティアラさん。今日はあなたの弟さんと話しにきました⋯⋯⋯⋯おい、ハヤト・ヴァンデラス」

「なんだ?」

「君だな? ティアラさんをD組へ無理やり引っ張ったのは?」

「別に無理やりではない」

「君が姉想いなのはわかった。だが、少々強引過ぎやしないかい?」

「別に強引なことはしていない」


 カルロとハヤトの会話に周囲の者たちも「なんだ、なんだ?」と集まってきた。


「君はそう思っていなくても私にはそう見える」

「それはお前の考えに過ぎない。そして、俺は俺の考えもある。そんな他人の主観を否定するのはどうかと思うがな」

「なるほど。口だけは達者だな。では、今日のクラス対抗戦⋯⋯勝負だ」

「は? どうしてそうなる?」

「口で言ってもダメなら少々痛い目を見ることも必要だからな」

「⋯⋯それがお前の常識なのか?」

「ああ、そうだ。入学式での国王様への態度もそうだが⋯⋯君には少し教育が必要だと思ってね」

「⋯⋯そうか」


 ハヤトがカルロの挑発的な言葉に何やら少し考え込む。ティアラやD組の皆はハラハラと落ち着かない様子で二人のやり取りを見ていた。


「いいだろう。その挑戦受けよう」

「ハヤトっ!? あ、あなた、何言ってるのよ!」


 ティアラはハヤトが返答するや否や二人の間に割って入った。


「私たちはD組よ! そしてカルロたちはA組。しかもクラス対抗戦は団体戦で個人戦じゃないのよ!」

「団体戦だからいいんだ。それにD組はハンデをもらえるし、ティアラたち元A組もいるじゃないか。何とかなる」

「何言ってるのよ! 私たち元A組の三人とD組の生徒は今日初めて顔合わせしたばかりで連携とかやったことないじゃない!」

「なに、対抗戦が始まるまでには時間がある。その間に連携の確認をすればいい」

「そ、そんな短時間でできるわけ⋯⋯」

「ティアラさん」


 ハヤトとティアラの間に今度はカルロが割って入る。


「彼の言う通りです。これは団体戦ですし我々はハンデも背負います。それにハンデは魔力攻撃禁止ですので危険なことはありません。これはあくまで模擬戦なのですから」

「そ、それは、そうだけど⋯⋯」


 カルロがハヤトの言葉をフォローする。ティアラはその言葉に言葉を詰まらせた。


「よし、決まりだ、ハヤト・ヴァンデラス。では対抗戦で会おう」


 カルロがほんの少しニヤッと嫌な笑みを浮かべながら去っていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おい、ハヤト! お前、なんてことしてくれたんだよ!」


 カルロが去った後、俺たちは対抗戦の話し合いということで昨日訓練した敷地へと移動していた。


「どうした、ライオット?」

「どうしたじゃねーよ! お前、何でA組と対抗戦やるような状況に持っていったんだよ! 勝てるわけないだろ!?」

「ハンデで相手は魔力攻撃禁止だ。何とかなる」

「いやいや! 魔力攻撃禁止って言っても身体強化で魔力使うのはいいんだぞ?! B級魔術士クラスBの多いA組の奴らの魔力で身体強化されたらまともな勝負になんてならねーよ!」


 ライオットの言葉は周囲は「うんうん」と深く首肯する。


「問題ない。別に勝つつもりはない」

「は?」

「まだ精霊スピリタスを認識できない皆がB級魔術士クラスBの多いA組には勝てない。だが今回はハンデ戦でA組は魔力禁止となっているからな。この条件下ならちょうどこれから皆に教える『技』の練習になると思ったんだ」

「え? もう一つの⋯⋯⋯⋯技?」

「ああ。『魔力の身体強化』についての技だ」

「え?! 魔力の身体強化にも何かあるのか!?」

「ああ。少ない魔力を有効活用して魔力的に格上の相手と戦う為の技だ」

「そ、そんな技もあるのか!?」

「ある。まあ⋯⋯⋯⋯精霊スピリタスからの魔力供給が可能となって魔力が豊富に扱えるようになれば使わない技ではあるがな」

「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」


ハヤトの言葉に皆が驚きの表情を浮かべて固まる。


「というわけで、これから対抗戦が始まるまでの三時間が勝負だ。早速始めるぞ」


 そう言ってハヤトが皆に技の説明を始めた。


「魔力での身体強化の場合、一般的には全身に魔力を行き渡せるやり方だと思うが、それは本来魔力が豊富な奴らがやるやり方だ。だから魔力の少ない者が同じことをやると少ない魔力をさらに薄めることになるので結果、魔力のある奴との戦いではまず勝てない」


 皆がハヤトの言葉に納得する。


「⋯⋯だから、少ない魔力の者たちが身体強化をするときは『一点爆発型』のほうが効果はある」

「「「「い、一点爆発型?」」」」

「まあ、簡単に言うと『全身に魔力を広げる』のではなく、『必要なところにだけ魔力を集中して送る』というやり方だ。こうすることにより、攻撃面で見れば相手に効果的なダメージを与えたり、足に魔力を集中させて俊敏性を飛躍的に上げる。もちろん防御面でも腕や上半身に集中して強化すれば格上の相手の物理攻撃にも耐えることができる。まあ、一点爆発型は攻撃面とのほうが相性はいいがな」


 ハヤトの言葉に皆が真剣に耳を傾ける中、ソフィア・ハイマンは特に熱心に話を聞いている。ソフィア・ハイマンにとってもハヤトのその身体強化の話は聞いたことがなかった為だ。


「まあ、これは実際に回数を重ねて体で覚えるものだから早速やるぞ。やればわかるが精霊スピリタスの認識ほど難しいものではない。大丈夫だ」


 そう言ってハヤトは皆に『一点爆発型』の体内魔力による身体強化法を見せながら指導を始めた。


——三時間後


 クラス対抗戦がいよいよ始まった。


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