第44話035「精霊(スピリタス)との相性」



「じゃあ、早速だがまずは俺がさっきみたいに精霊スピリタスを見えるようにするから、そこから説明していくぞ」


 そう言うと、ハヤトがさっきのように体から強烈な光を発し、精霊スピリタスが可視化した。私たちの周囲にいっぱいの精霊スピリタスが動き回っている。


「それじゃあ、まずは⋯⋯⋯⋯ティアラ」

「え! あたし!?」


 私はまさか指名されるとは思わなかったので少しキョドってしまった。急になによ! ハヤトのバカ!


「ティアラ⋯⋯まずは目の前にいる精霊スピリタスは『いるのが当たり前だ』と思いながら触れてみくれ」

「いるのが当たり前⋯⋯て思って触れる?」

「ああ。皆は今まで精霊スピリタスの存在を知らずに生きてきた。だから、まずは精霊スピリタスがいるのが当たり前だと認識を改める必要があるんだ⋯⋯ほら、こうやるんだ」


 そう言うと、ハヤトが周囲の精霊スピリタスに手を触れる。すると、触れられた精霊スピリタスはニコニコと嬉しそうに微笑みながらハヤトの手に頬ずりしている。


 か、可愛いじゃない!


 可愛いものに目が無い私にとって精霊スピリタスは尊い存在に今、変わった。


「か、かわいいわね、この子たち⋯⋯」

「ああ。基本、精霊スピリタスは『世界の糧』と受け入れる者には愛情を持って接してくれる。それに俺たちの気持ちもちゃんと理解しているぞ。ただ、まあ、最初のうちは簡単に触れるのはでき⋯⋯」


 私は精霊スピリタスの愛らしい姿に夢中になり、思いのまま手を伸ばした。


 ポフ。


「あ、やわらかーい!」

「⋯⋯⋯⋯え?」


 私はハヤトが横で呆気に取られていたのにはまったく気づかずに、


「わー! 何、この可愛い生き物! 最高ーーっ!」


 一人、精霊スピリタスたちと戯れながら思いっきりはしゃいでいた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「お、おい、ハヤト⋯⋯どうした?」


 ソフィア先生が呆気に取られている俺に話しかけてきた。


「あ、いや⋯⋯ティアラがいきなり精霊スピリタスを認識するどころか、受け入られているのに驚いてな⋯⋯」

「どういうことだ?」

「いや、さっきも話したが普通これまでの常識が邪魔をして精霊スピリタスを認識するのはただでさえ簡単じゃないのにティアラは認識するどころか精霊スピリタスからも気に入られているのが信じられなくてな。すごいよ」

「そんなに難しいものなのか?」

「ああ。やってみればわかる」


 そう言って俺はソフィア先生に促した。すると、


「ぜ、全然、触れられん」

「いや、それが普通だ。ティアラが特別なだけだ」


 実際、ティアラのようにこんなすぐに精霊スピリタスから受け入れられるなんて普通はあり得ない⋯⋯⋯⋯これは思ってた以上にティアラは精霊スピリタスとの相性が良さそうだ。いや、相性というよりも⋯⋯もしかしたら、ティアラは精霊スピリタスと『深いつながり』があるのかも知れない。


 とりあえず、ティアラは精霊スピリタスと一人で楽しくやっていたのでそのままにし、皆の手伝いを始めていった。


——三時間後


「全然触れない⋯⋯」

「何か触れた感じはあったのにー!」

「できない⋯⋯全然」


 皆、いろいろと考えながら挑戦するもののティアラ以外は誰も精霊スピリタスに触れることができないまま合宿初日は幕を閉じた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 食事を終えたハヤトは一人合宿所から出て近くにある東屋にきていた。


「まさか、ティアラが初見で精霊スピリタスを認識するどころか受け入れられるとはな⋯⋯」


 本来、これまでの常識が邪魔をして精霊スピリタスを認識するには時間がかかる。そして、精霊スピリタスを認識し、精霊スピリタスから『世界の糧』として受け入れられないと魔力のエネルギーとなる魔素を吸収することはできない。


「最低でも一ヶ月以上はかかると思っていたがティアラが俺と同じ『初見』で精霊スピリタスを認識できるとは⋯⋯」


 ハヤトもまたティアラと同じく初見で精霊スピリタスを認識し、また受け入れられていた。しかし、ハヤトの場合は『魔王クラウスとの融合した存在』という特殊な事情があるので他とは比べられない。


 そんなことを考えながらハヤトが一人物思いに耽ってボソッと呟いた時、


「ほぉ。ハヤト以外で初見で精霊スピリタスを認識し、受け入れられるとはな。ティアラ・ヴァンデラスは精霊スピリタスと何らかの強いつながりがあるかもしれんな」


 どこからともなくハヤトの言葉に返答があった。


「なかなか面白いことが起きているじゃないか⋯⋯」


 ハヤトに返事を返した男が森の奥からゆっくりと歩いてくる。


「⋯⋯ジャン」

「いかにも、我こそはジャンノアール・アリストファレスである!」


 そこに現れた男はジャンノアール・アリストファレス国王だった。


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