第43話034「選ばれた者たち」



「D組の生徒は全員、俺と国王ジャンノアール・アリストファレスが選別した」


 ハヤトの衝撃の告白に皆が固まった。


 でも、これって、もしかしてお父様も絡んでいるのかもしれない。あの⋯⋯⋯⋯三百年前の『ガイア戦記』が偽りの歴史だったというあの話に。


「ど、どういうことだ?」


 ビンセント・ミケランジュが尋ねる。


「ここにいるD組十一人は下級貴族と平民で、かつ、過去に貴族の理不尽に家族ごと虐げられた者、さらに力があればこの不条理な世界をどうにかしたいという義憤を持つ者⋯⋯⋯⋯という基準で選定されている」

「「「「!!!!!」」」」


 皆がハヤトの言葉に驚きつつも否定をしなかった。ということはハヤトの言葉は正しいのだろう。でも、


「じゃあ、私たちはどうして選ばれたの⋯⋯ハヤト君?」


 イザベラがハヤトに尋ねる。


 そう、D組の生徒がハヤトの言う選定基準に当てはまっているとしても、イザベラやマリーはその基準に完全には当てはまらない。


「イザベラだけでなくマリーやティアラ、ソフィア先生は貴族に虐げられる側ではないが、この世界に対しての『義憤を持つ者』で選んだ」

「「⋯⋯」」


 イザベラとマリーがハヤトの言葉に顔を沈める。私は二人の事情を知っているのでその態度は理解でした。


「そして、今言った選定理由に該当する皆は共通して今回教える大気からの魔力供給の習得に最も適性があるとも言える」

「「「「え⋯⋯?」」」」

「俺が選んだ皆は精霊スピリタスに『世界の糧』と判断される可能性が高い」

「ど、どういうこと?」

「人間の堕落はいずれ世界の崩壊を招く恐れがあり、結果『世界の糧』に反するものになる。故に世界の堕落の修正を願う者たちは『世界の糧』に当てはまるってことだ」

「⋯⋯なるほど。それはつまり、お前は私たちにその世界を修正する為の『力』を与え共に戦ってほしいということか?」


 ソフィア先生が厳しい表情でハヤトに問いただす。


「そうだ」

「しかも、これはお前だけじゃなくジャンノアール・アリストファレス国王様も絡んでいるということだな?」

「ああ。ただし強制ではない。実際、皆には入学していきなりこんな話しても荷が重い話だし、何より覚悟が必要とされる。だから断ってもらっても構わない。断った生徒はD組からC組へ移動できるよう国王に話は通してある。だが、できれば⋯⋯⋯⋯皆には力を貸して欲しい」

「「「「!!!!!」」」」

「⋯⋯そうか」


 ハヤトの話に『ジャンノアール・アリストファレス国王様が絡んでいる』⋯⋯その一言に皆が目を瞬き、ソフィア先生は静かに相槌を入れる。皆の口数が無くなり、各々が深く考え込む。


 ハヤトが言っていることははっきり言って『叛逆』に他ならない。しかも、規模が国どころか世界に対しての『叛逆』のようなものだ。あまりにも規模が大きい話で私たちのような一学生⋯⋯しかも入学したばかりの一年生には荷が重い話だ。さらに、これまで『魔術士ランキング』が低く、世間的に蔑まされてきたD組の生徒であれば言わずもがなだろう。


 しかし、このハヤトの話にジャンノアール・アリストファレス国王様が絡んでいるとなると話は変わる。


 その証拠にハヤトの話を聞いたD組の生徒たちはすぐに否定せずに考え込んでいる。そんな皆の態度がどういうことを意味するのか⋯⋯私やイザベラ、マリーにも理解できる。


「チャンスは今後も含めておそらくこの一度だけだろう⋯⋯」

「「「「ビンセント⋯⋯」」」」


 ビンセント・ミケランジュが静かに話し出す。


「俺を含め、ここにいるD組の生徒は小さい頃から一緒だった。理由はもちろん魔術士ランキングが低いということイコール、平民、下級貴族だからだ。そして、この世界では魔術士ランキングがすべてだ。そのランキングが上がる見込みのない俺たちは初等部からすでに将来に悲観していた⋯⋯」

「ああ、そうだな」

「うん⋯⋯」


 ビンセント・ミケランジュの言葉にライオット・シャゼルバイゼンとリンガが少し声を震わせながら共感の意を見せる。


「でも⋯⋯この学院に入って俺たちの知らない力を持つハヤト・ヴァンデラスに出会った。そして、そいつは俺たちに『力を貸して欲しい』と言う。確かに、すべてハヤトにお膳立てされていたことには思うところがあるが、しかし、そこに国王様も絡んでいるとまで聞いたら⋯⋯⋯⋯俺はハヤトに乗ってみる価値はあると思う」

「「「「ビンセント⋯⋯」」」」

「これまで絶望していた魔力の少ない俺たちにとって、この理不尽な世界を変える最後のチャンスだぞ⋯⋯みんな!」

「「「「!!!!!」」」」


 普段、人と関わることを嫌う口数の少ないビンセント・ミケランジュが拳を上げて皆を鼓舞し、皆がその姿に顔を紅潮させテンションが上がっているのがわかる。


「やる! 私⋯⋯やる!」

「リンガ!」

「だって⋯⋯ハヤト君が協力して欲しいというなら、その、目一杯力になってあげたい!」


 ん? あのリンガって子⋯⋯⋯⋯それってもう告白しているようなもんじゃないっ!


 そうか。あの子⋯⋯ハヤトのことを⋯⋯。


「も、もちろん! わ、私も⋯⋯私もハヤトに協力するわよ。大事な弟ですから!」

「ティアラ⋯⋯」

「でも、ハヤト? この話も後からもうちょっと詳しく教えてよね?」

「!? は、はい⋯⋯」


 すると、これを皮切りに皆がハヤトに協力すると手を挙げていく。


 結果、ソフィア先生含めここにいる生徒全員が参加することとなった。


「みんな⋯⋯ありがとう」


 ハヤトはそう言って皆に向かって深く頭を下げた。


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