第53話043「異変」



「「ハヤト君!」」

「ん? おお、イザベラ、マリー⋯⋯⋯⋯あれ? ティアラは?」

「「あっち⋯⋯」」


 二人が言った方向に目を向けるとそこには体育座りでブツブツと項垂れているティアラが見えた。


「な、なんだ?! どうしたんだ?」

「ハヤト君。とりあえず、今、ティアラ落ち込んでるから声をかけてあげて」

「お願いします、ハヤトさん。ティアラさんが面倒臭い状況⋯⋯もとい、落ち込んでいる状況を救えるのはハヤト君だけです!」

「それじゃあ、ハヤト君、よろしく! 私とマリーはあっちで魔物狩りに行ってくるわね。それじゃあ、よろしくー!」

「お、おい⋯⋯っ?!」


 二人はハヤトに押しつけ⋯⋯いや、頼ってその場を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おい、ティアラ。どうした?」

「!? ハ、ハヤトっ! あ、あれ? イザベラとマリーは?」

「二人は先にあそこで魔物狩りをしている。それよりもどうした? 顔色が悪いじゃないか?」


 ティアラはハヤトが声をかけると思っていなかった為、驚いて思わず言葉がどもる。


「べ⋯⋯別に、どうもしない⋯⋯わよ⋯⋯」


 ティアラはハヤトに心配をかけていることに申し訳なく思ってしまい、気持ちとは裏腹な態度を取る。だが、


「どうもないわけないだろ」

「えっ!?」


 ハヤトが強い口調をティアラにぶつける。


「今はただでさえ結界の外でC級とはいえ魔物が出現するエリアにいるんだ。ティアラがいくら強くても油断しているとやられるぞ。わかってるのか?」

「あ⋯⋯う、うん⋯⋯」


 ハヤトが珍しく厳しい言葉でティアラを説教しているのを見て周囲の皆が驚いていた。


「ハ、ハヤトが⋯⋯怒ってる」

「珍しいわね⋯⋯しかも相手はお姉さん⋯⋯ティアラさんじゃない」


 また、それを見ていたリンガもまた、


「ハヤトさん⋯⋯やっぱり⋯⋯」


 その光景にいろいろと思うところがあったようである。


「リーンガ!」

「きゃっ! も、もうっ! シャロンさん! 尻尾は触らないでくださいぃぃ!」

「きゃはは。ごめん、ごめん」


 リンガの元に駆け付けたのはチームのシャロンとエマ。


「それにしてもハヤト君⋯⋯あんなにティアラさんに対して強い口調で⋯⋯」

「う、うん⋯⋯」

「悔しいけど⋯⋯やっぱりあれだけ強い言葉をかけられるティアラさんはまだまだ他の子よりもハヤト君の中では特別なんだね⋯⋯」

「⋯⋯」


 さっき褒められて舞い上がっていたリンガは一転、暗い顔をして項垂れる⋯⋯が、


「⋯⋯で、でも」

「「リンガ?」」

「それは⋯⋯それは初めからわかってたことだもん! 別に、も、問題⋯⋯ないもんっ!」

「「おおー!」」


 二人は以前と違って心身共に逞しくなったリンガに思わず声をあげる。


「わ、わたし! ハヤトさんを側で支えられるようもっともっと強くなる!」

「「リ、リンガ⋯⋯」」

「さっ! 落ち込んでいる暇はないんだよね、シャロン、エマ!」

「「う、うん⋯⋯」」

「それじゃあ、もっと魔物狩り行こっ!」

「「わわっ?!」」


 リンガはシャロンとエマの手を引っ張って森へとまた入って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「⋯⋯ティアラ。落ち込む理由はわからないが俺はティアラにはもっと強くなって欲しいと思っている」

「ハヤト?」

「できれば、俺と同じくらい強くなって⋯⋯⋯⋯俺のそばでこれからも一緒に戦って欲しい」

「え? え?」


 ティアラがハヤトの言葉に思わず顔を紅潮させる。


「すでにティアラが強いのは知っている。だが、それだけじゃダメなんだ⋯⋯」

「ハヤト?」

「本当の敵は⋯⋯⋯⋯強大だ」

「え? 本当の⋯⋯敵?」


 ハヤトが一転、神妙な面持ちで口を開きかけた⋯⋯その時だった。伝令用魔道具の『伝令フクロウ』が上空で旋回しながら声を轟かせた。


「緊急っ! 緊急っ! 先頭のA組にてトラブル発生! 現在、A組の生徒たちがS級魔物と交戦中! 繰り返す! S級魔物と交戦中! B組以下の生徒達は速やかに学院へと戻れたし! 繰り返す! 現在、先頭のA組にてトラブル発生! 現在、A組の生徒たち⋯⋯」


 伝令フクロウは二回伝令を繰り返すと学院にいる先生たちへの報告の為、学院に向かって飛んでいった。


「な、なぜだっ!? A組が魔物狩りを行うエリアはB級魔物しか出現しないはずなのにっ!」


 ソフィア・ハイマンが少し青ざめた顔で動揺した声を荒らげる。


「というわけで皆さん! 聞いてましたね。魔物狩りはすぐに中止して合宿所には戻らず、学院へと戻ってください!」


 動揺するソフィア・ハイマンとは対照的にマリア・ウィンスターが即座に声を上げ、生徒達へ的確な指示を飛ばす。生徒達はマリア・ウィンスターの指示どおり、学院へと走り出そうとした⋯⋯その時だった。


「⋯⋯俺は残ります」

「!? ハ、ハヤト・ヴァンデラス君っ!」


 ハヤトがこの場に残ることを告げるとマリア・ウィンスターが即座に反応。


「ダメです! 聞いていなかったのですか! B組以下の生徒たちはこの場からの脱出が最優先です!」

「マリア先生⋯⋯」


 マリア・ウィンスターが両手を広げ、ハヤトが前に進ませないよう立ち塞がった。


「マリア先生⋯⋯ちなみにどうしていけないのか聞いていいですか?」

「危険だからです!」

「では先生たちはどうするのですか?」

「私とソフィア先生は助けに行きます!」

「なぜ生徒はダメなんですか?」

「だから危ないからだと⋯⋯」

「先生達は危なくないのですか?」

「そんなことはありませんが、少なくとも生徒達よりは強いので危険度は下がります!」

「では、俺が先生達よりも強い場合は行ってもいいのではないか?」

「!? そ、それ⋯⋯は⋯⋯」


 マリア・ウィンスターが言葉に詰まった。


「もう良い、二人とも」

「ソフィア先生っ! ソフィア先生からも何とか言って⋯⋯」

「いや。私から言うことはない。仮に言うことがあるとしたら⋯⋯⋯⋯ハヤト・ヴァンデラスにも協力して欲しいということだ」

「なっ⋯⋯?!」

「マリア嬢。お前もわかっているはずだ。今、この場でS級魔物に対抗できる者がいるとしたら⋯⋯⋯⋯ハヤト・ヴァンデラスだけだと」

「⋯⋯っ!? で、でも、ハヤト君は一生徒⋯⋯」


 と、マリア・ウィンスターは言いかけるが、


「こいつが一生徒という『枠』にハマらないことは理解しているだろ、マリア嬢?」

「う、ううう⋯⋯わかりました。それでは無理をしないと誓えますか?」

「ああ、問題ない」

「わかりました。では、まいりま⋯⋯」

「「ちょっと待ったーーーーっ!」」


 三人が声のほうに振り向くと、


「先生! 私たちも⋯⋯」

「もちろん、参加させていただきます」

「ティアラ・ヴァンデラスさん! カルロ・マキャヴェリ君!」

「うむ。二人まではオーケーだ! だが、それ以外の生徒たちはダメだ! イザベラ・カンツォーネ! マリアンヌ・ベルガモット!」

「「は、はいっ!!!」」


 突然、ソフィア・ハイマンから声がかかり驚く二人。


「四大公爵のお前達が責任を持って、D組だけでなくB組、C組の生徒達もまとめて学院へと導け、いいなっ!」

「「は、はいっっ!!!」」


 ソフィア・ハイマンがそう二人に告げると同時に、森の奥から逃げてきたのであろうB組、C組の生徒たちが見えた。


「よし! では、マリア嬢! 私たちは奥へ急ぐぞ! ハヤト・ヴァンデラス、ティアラ・ヴァンデラス、カルロ・マキャヴェリ! 遅れるなよっ!」

「問題ない」

「はいっ!」

「誰にモノを言ってる? 舐めないで頂こうっ!」


 そうして、ソフィア・ハイマンを先頭に五人は生徒達とは逆の森の奥へと、もの凄いスピードで駆けて行った。


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