第54話044「S級魔物クリムゾンオーク」
「こ⋯⋯これは⋯⋯」
ハヤトたちがA組の魔物狩りの狩り場である森の奥へと向かう途中、A組の生徒達がバタバタと倒れていた。
「お、おい! お前ら! 大丈夫かっ!?」
「う⋯⋯うう⋯⋯ソ、ソフィア先⋯⋯生⋯⋯?」
「よ、よかった。生きては⋯⋯いるようだな」
倒れていた生徒たちは特に大きなケガはしていないようだった。聞くと彼らはA組のベロニカ・アーデンブルグの風魔術によって現場から吹き飛ばされたとのことで、突然、予告なく飛ばされたので受け身を取れなかったことで軽い脳しんとうを起こしているだけだった。
「ベ、ベロニカ様は⋯⋯私たちをS級魔物から遠ざける為、風魔術で⋯⋯吹き飛ばして⋯⋯」
「⋯⋯ベロニカ・アーデンブルグ」
「ということは、今頃、あいつは⋯⋯」
ソフィア・ハイマンとカルロ・マキャヴェリが話をしている横を駆け抜ける者がいた。
「「ハ、ハヤト・ヴァンデラスっ!」」
「あとはまかせた」
「え⋯⋯お、おい⋯⋯っ!?」
そう言うや否や、ハヤトの姿があっという間に皆の視界から消えた。そのハヤトの行動を見てカルロ・マキャヴェリが動く。
「ソフィア先生。私がこの生徒達の手当てはしておきますので先生とティアラさんはハヤト・ヴァンデラスを追ってください」
「!? カ、カルロ⋯⋯?」
「この中では私が⋯⋯⋯⋯一番『弱い』ですから」
「カ、カルロ⋯⋯?」
カルロが二人にはっきりと『弱い』という言葉を使った。
四大公爵の中でも影響力のあるマキャヴェリ家の次男であり、また実力者でもあったカルロ・マキャヴェリはこれまで自分たち家族や王族以外はただの『下々の者』という考え方の人間だった。しかし、その根底には⋯⋯⋯⋯「力を持つ者にはそれ相当の責任が伴う」という『ノブレス・オブリージュ』の精神を持っていた。それ故、今の自分の「役割」「責任」を理解したカルロがその『弱い』という言葉を発したのであった。
「今の私は⋯⋯この中では一番弱い。ですので、私がここは引き受けます。ですので、お二人はハヤト・ヴァンデラスを追ってください!」
「カルロ・マキャヴェリ⋯⋯」
「な〜に⋯⋯『今の私は』という意味ですから。私はもっと強くなります。そして、二人を抜き、ハヤト・ヴァンデラスを抜いて、最後はこの国の民すべてを守れるくらいに強くなりますから」
「⋯⋯ふ。言うじゃないか、カルロ・マキャヴェリ」
「いえ、それほどでも。それよりお二人とも⋯⋯⋯⋯急いでハヤト・ヴァンデラスを追いかけてください!」
「わかった。いくぞ、ティアラ・ヴァンデラスっ!」
「はいっ!⋯⋯⋯⋯カルロっ!」
「はい。何でしょう、ティアラさん?」
「ちょっと⋯⋯⋯⋯カッコよかったわよ」
「え? そ、それって⋯⋯」
「じゃあ、いってくるっ!」
「え? あ⋯⋯ちょっ?! ティアラさんっ?!」
ティアラがペロッと舌を出して笑いながらソフィア・ハイマンと共に駆け出して行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぐもぉぉおぉぉおぉぉぉぉっ!!!!!」
ガキン!
「うぐぐ⋯⋯⋯⋯⋯⋯ぐはっ?!」
バキバキバキバキバキバキバキバキっ!!!!!!!
身長五メートルもある牛の顔をしたその魔物の突進をいなし受け流したのは現・A組筆頭の実力者であるベロニカ・アーデンブルグ。しかし、今、相手をしているのはS級魔物であり、
「はあ、はあ、はあ、はあ⋯⋯⋯⋯この⋯⋯化け物め。しかし、どうしてこんな⋯⋯S級魔物の⋯⋯しかも⋯⋯S級魔物の中でも上位ランクの強さの『クリムゾンオーク』がこんなところに現れるなんて⋯⋯」
「げふ、げふ、げふ、げふ⋯⋯」
魔物は恐怖と悔しさが入り混じったベロニカの言葉が通じているのかのように、汚い笑みを浮かべながらゆっくりとベロニカへと近づいてくる。まるで「お前みたいな弱者をジワジワと
「このままでは⋯⋯」
ベロニカは考えていた。
現状、戦える者は私以外にはいない。エンリル・ザビト先生は生徒達を逃すために自ら魔物に飛びかかっていったがまるで歯が立たず、地面に激しく叩きつけられそのまま意識を失った。実際、生きているかどうかもわからない。
一応、先生が魔物と対峙してくれたおかげでスキができたので、私がすぐに風魔術スウィングストームを発動させ、他の生徒達をここからだいぶ離れた安全圏まで吹き飛ばした。だから、他の生徒達にすぐに危害が及ぶことはないだろう。だが⋯⋯、
「このままでは⋯⋯いずれ全滅⋯⋯ということか。しかし⋯⋯」
気づくと、ベロニカの目の前には牛の顔をしたS級魔物『クリムゾンオーク』が下卑た笑みを浮かべ立っていた。
「げふ、げふ⋯⋯。おれの名、クリムゾンオーク。ニンゲン、痛ぶるの、だいすき」
「!? こ、こいつ⋯⋯」
なんと⋯⋯そのS級魔物『クリムゾンオーク』は人の言葉を喋った。
「ふ⋯⋯豚のくせにしゃべるか。しかも性格は最悪でおまけに⋯⋯⋯⋯変態かよ」
「げふ、げふ。オマエの、鳴き声、じっくり、聞かせて⋯⋯⋯⋯クレっ!」
そう言って、クリムゾンオークはベロニカの両腕を取る。
「くっ?! は、離せ! 離せ、ブタ野郎っ!」
「げふ、げふ。イツマデ、その威勢が、つづくか、な?」
「な、なんだ⋯⋯?」
モコモコモコモコモコモコ⋯⋯。
両腕を取られ、空中へと体を持ち上げられた状態のベロニカがクリムゾンオークの背中を見るとその背中がモゴモゴと不気味に動いていた。そして、
グニューン。グニューン。
「え⋯⋯えええっ?! う、腕が⋯⋯生えて⋯⋯」
そう、クリムゾンオークの背中からさらに二本の腕が生えてきたのだ。
「げふ、げふ。ニンゲンは、いつも、これを見て、ビックリするから、やってて楽しい楽しい。でも、この腕を見た後はいつも⋯⋯⋯⋯⋯⋯泣いて喚いて命乞いをしてくるんだよね。げふ、げふ⋯⋯」
「!? な、なに⋯⋯を⋯⋯⋯⋯あぐっ?! あががががががががっ!!!!」
ぎゅううううううううう!!!!!!!!!
クリムゾンオークがベロニカの掴んだ両腕を握力で握り潰し始めた。
「げふ、げふ、げふーーーーっ! いいよ、いいよぉぉ。お前の鳴き声、悪くない。げふ、げふ⋯⋯」
「う⋯⋯ぐぅ⋯⋯がぁぁぁぁぁっ!!!!」
「げふ、げふ、げふ! ニンゲン痛ぶるの⋯⋯⋯⋯たーのしー!」
そう言って、クリムゾンオークがグッと力を入れてベロニカの腕を潰そうとしたその時だった。
「豚が人間の言葉をしゃべるのはやはり⋯⋯⋯⋯気持ち悪いな」
「え⋯⋯?」
クリムゾンオークが人間の言葉が聞こえたと思った瞬間——さっきまでニンゲンの腕を掴んでいた自分の両腕が斬り落とされ地面に落ちていることに気がついた。
「あばばばばばばばっ!? う、腕が⋯⋯腕がぁぁぁぁぁーーー!!!!」
斬られた両腕から大量の血飛沫が飛び散り、その苦痛に悶絶しているクリムゾンオークを横目にその男はベロニカを抱え上げた。
「お、おおおおお、お前は⋯⋯⋯⋯ハヤト・ヴァンデラスっ!?」
「ふむ。どうやら、まだ元気のようだな」
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