第5話005「その後」
「ハヤト!」
「ティ、ア、ラ……?」
俺の名を呼ぶその声の主は、初めての友達……ティアラ・ヴァンデラス。
「ハヤト君。私の名はオリヴァー・ヴァンデラス……ティアラの父親だ。君の事はティアラから話を聞いた」
「ティアラの、おとう、さん?」
「そうだ! いいかい、ハヤト君。その男を殺してはいけないよ?」
「な、ぜ?」
「君を人殺しにはしたくない。ここは私に任せてほしい」
「あ、ん、た、に?」
「ああ。失礼だが……こんな奴のために君が人殺しをする必要はない」
「……」
「な~に、大丈夫! 心配ご無用! だから私に任せてほしい……いいかな?」
「……」
俺は中の奴に必死に呼びかけた。
『おい! おい、お前! もういい、やめろ! ティアラの親父さんの言う通りにしてくれ!』
『……いい、のか?』
『ああ、いい……それでいい!』
『わかっ、た』
――直後、またも俺の体が激しく振動する。
「う……く……っ?!」
そして振動が止まるとまた俺は意識を失った。
「ハ、ハヤトっ!?」
「大丈夫だよ……ティアラ」
意識を失った俺に駆け寄ろうとしたティアラを止めるティアラの父親。
「ハヤト君は大丈夫だ。それよりもこの男を縛らないとね」
「ああ~!? 何なんだ、おめえは! さっきから聞いてりゃ~俺の事をバカにしやがって! てめえ、俺が誰だかわかってんのかっ?!」
父親は助けたはずのティアラの父親……『オリヴァー』さんに対し、さっきの自分との会話の内容が気に食わなかったのか凄みを利かせた。
「あなたこそ私を誰だかご存じないようですね?」
「な、なんだと?!」
「私の名はオリヴァー・ヴァンデラス。アリストファレス王国王宮魔術士やらせてもらってます」
「お、王宮魔術士⋯⋯オリヴァー⋯⋯⋯⋯っ!? ま、まさか、あの⋯⋯『水のオリヴァー』!!」
「正解。よくできました」
ドン!
「かはっ?! な、なんで、そんな人が……ここに……」
父親は俺に打ち付けたエネルギー波ではなく、空気の塊のようなものを食らって一撃で失神した。
「パ、パパ?」
「さてさて……これはちょっとした『大事件』……ですね~」
「え?」
オリヴァーさんは苦笑いしながらそう呟くと、失神した父親を縄で縛り、そのまま俺と一緒にかついで森を出て行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ハヤト様。チュートリアル、クリアおめでとうございます』
「!? だ、だれだ?」
俺はその声に対して反応する。
『今のハヤト様には関係のない者でございます』
「え? それって、どういう……」
『では、次のチェックポイントまでクリアできましたらお会いしましょう……ディスコネクト』
「ちょ、ちょっと、待っ……?!」
――ブツン
「?? あれ? おーい……おーい……」
頭の中に響いていた声が突然聞こえなくなった。
「な、何だったんだ……今のは?」
『おーハヤト。元気そうじゃねーか』
「!? あ、あれ? その声は?」
次に聞こえた声はさっきまで俺の体を使っていた男の声だった。
『おう! 初めまして……だな。俺の名はクラウス。知ってるか?』
「は、はい、初めまし……え? いや、知りませんけど⋯⋯誰?」
『何? 知らない、だと?! 魔王クラウスだぞ?』
「ま、魔王? ひょっとして魔族ていう種族の王様のこと?」
『そうそう! あれ? でもあんまり驚かないんだな?』
「す、すみません、俺、学校行ってないんであんまり詳しくは知らなくて⋯⋯」
『そ、そっか。そうだったなぁ〜。う~ん⋯⋯俺の凄さをどう説明すればいいんだ~? 俺、説明とか苦手なんだよ~』
「は、はあ……」
何となくだが、この人⋯⋯単純で不器用そうな、でもそれでいて、どっしり構えて頼りがいのある人みたいな⋯⋯少なくとも悪い人には見えなかった。
『お! 今、ちょうどさっきの魔術士がなんか話しているみたいだから起きて話聞いてみろよ?』
「は、はあ……」
そうして俺は、ゆっくりと意識を取り戻した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、あれ? ここ……は?」
「ハヤトーーーーーっ!!!」
「おわっ?!」
目を覚ますや否や、ティアラが俺の上に勢いよく覆いかぶさってきた。
「ティ、ティアラ……っ?!」
「よかったー! いつになったら起きるのか、もしかして、もう起きないんじゃないかって……心配したんだからーーー!!」
ティアラはそう言うと泣きながら声を張り上げた。
どうやら、そうとう心配をかけてしまったらしい。
「ご、ごめん、ティアラ。心配かけて……」
「ホントだよー! もう! バカ!」
「……ごめん。でも、ありがとう」
「うん」
俺はティアラの手を握りながら謝罪と感謝の言葉を伝えた。
「コホン」
「え?」
「きゃっ?! パ、パパ!」
ティアラは顔を赤くしながら咄嗟に俺のいるベッドから離れた。
「まったく。この部屋に一緒に入ったのに忘れてたのかい、ティアラ?」
「ご、ごめんなさい、パパ」
「え? パ、パパ? そ、それじゃあこの人……ティアラの……」
「初めまして、ハヤト君。君の事は娘からいろいろ聞いてるよ」
「ちょ!? パ、パパぁ~~!!」
ティアラが顔を紅潮したまま、ふくれっ面でその人をギロッと上目遣いで睨む。
うん、可愛い。
「ハッハッハ! 別にいいじゃないか。本当のことなんだし」
「もうっ! 知らないっ!」
不貞腐れたティアラがプイッと顔を背ける。
「いや~、起きて早々、騒がしくしてすまないね、ハヤト君」
「あ、いえ……」
「君はあれから……三日間も寝ていたんだよ」
「え?! み、三日!」
「そう。あ、自己紹介がまだだったね。私の名はオリヴァー・ヴァンデラス。ティアラの父親です。よろしく、ハヤト君」
「は、はい。よろしくお願いします、オリヴァーさん」
「うんうん、よろしくね。さて、と……いきなりで悪いけど、ちょっとこれから大事なお話をしてもいいかい?」
「は、はい。大丈夫です」
「うん。ハヤト君もいろいろ聞きたいことがある……みたいだね?」
「……はい」
「よし! それじゃあ、とりあえずティアラは外に出て……」
「あたしも一緒に話を聞く!」
「ティアラ?」
「ハヤトは私の友達……ううん『大事な親友』なんだもんっ!」
「フ……そうか。ハヤト君、友達から『大事な親友』に格上げみたいだね。おめでとう」
「は、はあ」
「わかった。それじゃあティアラもこっちにおいで」
オリヴァーさんはティアラを呼んで俺のベッドに座らせた。
「そうだね。これはティアラも知っておいたほうがいい話かもね。でも、ティアラ……もしかしたら私がハヤト君の話をするとティアラはハヤト君のことを嫌いになるかもしれない」
「え?」
俺はオリヴァーさんの言葉に一瞬、焦る。
せっかく今一緒にいるのに、ティアラに嫌われるなんて……そんなの嫌だ!
なので、俺はオリヴァーさんに今は話をやめるよう言おうとした……が、
「それは絶対にないわ、パパ!」
「ティアラ?」
ティアラが真剣な眼差しで父親の目を見つめながらはっきりとした口調で答える。
「あたしはハヤトの事でどんなことを言われても嫌いになることは絶対にないから話してっ!」
「ティ、ティアラ……」
ティアラが感情を込めた力ある言葉でオリヴァーさんへ言葉をぶつける。
「ティアラの気持ちはわかった。それじゃあ話を始めるね」
「「コク……」」
一度、間をおいてオリヴァーさんはゆっくりと話を始めた。
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