第6話006「ガイア戦記」



「まず最初に言っておくが、二人とも……これから話すことは絶対に他言無用だからね?」

「う、うん」

「わ、わかりました」


 オリヴァーさんは真剣な面持ちで俺たちに釘を刺す。


 それだけでも、これから話すことは重要な話であることが伺えた。


「さて、話す前にハヤト君⋯⋯ちょっと質問なんだけど君は今、自分の中で何か気になっていることがあるんじゃないかい?」

「え?⋯⋯は、はい」

「ふむ。例えばそれは⋯⋯自分の中に『別の何か』についてだったりするかい?」

「!? ど、どうして、それを⋯⋯」


 俺はオリヴァーさんのピンポイントの指摘に驚く。


「ハヤト君、ちなみにその『何か』とは会話ができるのかい?」

「何回かは話したことはありますけど⋯⋯意識して話すことはないです。あっちの都合で話しかけてくるくらいです⋯⋯」

「なるほど。ちなみにその『何か』について知っていることはあるかい?」

「え⋯⋯と、『クラウス』とか『魔王』とか⋯⋯言ってました」

「!? やはり⋯⋯そうだったか」

「な、何? 何の⋯⋯話?」


 ティアラが不安そうに俺とオリヴァーさんの顔を見るが、オリヴァーさんは気にせずそのまま話を進める。


「これから話すのは、ハヤト君の中にいる『何か』についての話に関係するとても重要な話だ」

「そ、それはつまり⋯⋯オリヴァーさんは俺の中にいる『何か』を知っているということですか?」

「うむ。君がさっき教えてくれた『クラウス』というのは三百年前⋯⋯人間と魔族間の戦争の時、魔族側の王だった『魔王クラウス』に間違いないだろう」

「ええ! 魔族の王ですって!」

「魔王⋯⋯クラウス⋯⋯」


 オリヴァーはハヤトの呟きに気づきつつも、あえてそのまま話を続けた。


「ちなみに『魔族』とは人間よりも体力や腕力、魔力に優れた種族のことなのだが、現在は全滅したと言われている」

「な、なんで? なんでそんな絶滅したはずの魔族の王様が俺の体に⋯⋯?」

「うむ。そのことなんだが、これからする話がまさにその『魔王クラウス』についての話となる。そして、この話をするにはまず、この国の……この『世界の歴史』を話す必要がある」

「世界の歴史……ですか?」

「ああ」


 オリヴァーさんがゆっくりと話を始めた。


「今から三百年前――この世界では人間と魔族が勢力争いで激しく争っていた。当時は今と違い優秀な魔術士が多く、体力的に圧倒する魔族の力に対抗していた。そんな時、当時の魔族を治めていた魔王が亡くなり、その代替わりした新しい若き魔王クラウスが我々人間に『平和協定』を提案してきたんだ」

「平和協定?」

「うむ。人間、魔族双方に多数の死者が出てお互いが疲弊する状況でもあった為、魔王は争うことを止め、資源や利益の共有を図ろうと申し出てきたんだ」

「それって凄く良いことじゃない?」

「ああ、そうだ。そして我々もその平和協定に応じることとなり、長く続いた戦争が終止符を打つということで人間、魔族双方が喜んでいた。だが⋯⋯」


 オリヴァーはそこで一度大きく深呼吸をして次の言葉を発した。


「平和協定の調印式の当日、魔族が襲撃した」

「えっ!?」

「魔族の⋯⋯襲撃!」

「⋯⋯その調印式には人間、魔族双方の各国の王や腕の立つ実力者が参加していたのだが、その調印式を襲った魔族は凄まじい量の魔力を溜め込んだ尋常ならざる破壊の魔道具を持ち込み、それをそこで⋯⋯⋯⋯起動させた」

「き、起動って、それじゃあ⋯⋯その会場は⋯⋯」

「ああ、想像の通りだよ。その調印式の会場を提供した国は一瞬で消滅した」

「く、国自体が⋯⋯消滅って、なんてことを⋯⋯」

「ひ、ひどい、酷過ぎるわ」

「ああ、その通りだ、ティアラ。その時、そこにいた人間、魔族双方の国王や実力者は⋯⋯死んだ。しかし、その場にいなかった人間側の王や実力者は魔族の裏切りに激怒した。幸いにも人間側の実力者の内、トップとナンバー2はたまたま別の用事でその場にいなかったこともあり、二人はすぐさま魔族へ反撃をしかけた」


 オリヴァーは一度目を瞑って話を止めた。


「ま、魔族のほうは戦力的にはどうだったんだ?」

「調印式で起きた大質量の爆発にも関わらず、唯一魔王クラウスだけは生き残った。だが、他のトップクラスの実力者は皆死んでしまっていたんだ。つまり⋯⋯」

「人間側が勝利したってこと?!」


 ティアラが興奮気味に声を上げる。


「そうだ。結果、多くの実力者を失った魔王クラウスは追い込まれ、最後は世界トップクラスの王宮魔術士たちによって倒された⋯⋯」

「よかったー! あんな汚い手を使った魔族が勝ったなんてことになったらあたし嫌だもん!」

「あ、ああ、そうだね」

「?!」


 オリヴァーが一瞬、苦笑いを入れたように見えた。


「その後、我々人間サイドでは『汚い手を使った魔族は一匹も生かしてはならない』ということを各国の王と王族が決め、魔族の生き残りの殲滅に向けて動き出す。そして、その戦争終結から十年後、魔族はほぼ全滅し、その後は人間がこの世界を統治することとなった」

「パパ⋯⋯その後の『世界を統治する』って話、あれでしょ?『ガイア統一記』」

「そうだ。ちなみにその前の人間と魔族との戦争の話は『ガイア戦記』として残っている」

「あ、ああ⋯⋯そっか〜。言われてみればそうだった⋯⋯気が⋯⋯する⋯⋯」

「⋯⋯ティアラ。学校でちゃんと勉強してるんだろうね?」

「!? ちゃ、ちゃんとしてますーぅ!」

「クス⋯⋯本当かな〜?」

「あ、ハヤト! あんたパパの肩持つわけ〜!」

「ハッハッハ⋯⋯」


 オリヴァーさんの笑い声を横にティアラは顔を赤くさせ俺に上目遣いで睨んでくる。


 うん、かわいい。


「とまあ、ここまでが⋯⋯⋯⋯世間に伝えられている話だ」

「え?」

「世間⋯⋯に?」

「⋯⋯」


 オリヴァーさんの笑顔が眉間に皺を寄せ、まるで苦虫でも潰したような顔へ変わる。


「これから⋯⋯人間と魔族の戦い『ガイア戦記』の真実を話す」


「「ごく⋯⋯」」


 俺とティアラはオリヴァーさんの気迫に圧倒され思わず唾を飲み込んだ。


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