第7話007「ガイア戦記の真相」
「ここからが『ガイア戦記』の真実だ」
ハヤトとティアラがオリヴァーの言葉に耳を傾ける。
「まず、そもそもあの平和協定の調印式で魔族が襲撃したのは本当だが、その魔族をけしかけたのは⋯⋯人間だ」
「ええっ!?」
「そ、それって⋯⋯」
「ああ。あの平和協定を壊すため、その場の者を殺すために裏で画策していたのは人間⋯⋯だったのさ」
「!? そ、そんな⋯⋯」
俺とティアラが絶句する中、オリヴァーはそのまま話を続ける。
「その『けしかけた者』が誰だったかはこの三百年経った今でもわかっていない。ただ、その『けしかけた者』の手掛かりはいくつか見つかってはいる」
「手掛かり?」
「しかも、私も初めは信じられなかったがその『けしかけた者』は今でも生きているらしい」
「ええっ!? そんなバカな⋯⋯」
「そんなの人間じゃないじゃない。そんなの、まるで⋯⋯」
「ああ、ティアラ⋯⋯その『けしかけた者』は人間を棄て魔族となったんだ」
「「えええええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」」
あまりに突拍子もない話に俺は唖然とした⋯⋯がティアラは違った。
「待って、パパ! その⋯⋯言いにくいんだけど⋯⋯パパの言っている話って真実なの?」
「ああ、真実だ」
「!! ど、どうして、そんなはっきり言えるのよ!」
「それはね⋯⋯この話を教えてくれたのは私のお師匠様だからだ」
「パ、パパのお師匠様?! あのハーフエルフの?」
「そうだ。しかもお師匠様はあの調印式に参加していた一人。いわば⋯⋯『生き証人』てやつだ」
「ハ、ハーフエルフ?」
「ん? あ、ああ⋯⋯ハヤト君はハーフエルフを知らないのか。ハーフエルフというのはね⋯⋯」
そう言ってオリヴァーさんがいろいろと教えてくれた。
『ハーフエルフ』——男性、女性ともに寿命の長い種族で平均寿命は『五〇〇歳から八〇〇歳』。魔族と同じくらいの寿命があるらしい。あと、
「ハーフエルフの最大の特徴はね、膨大な魔力を有していることなんだ」
ハーフエルフは魔力量だけで言えば全種族の中で一番だという。一応、稀に人間や魔族といった他の種族でもハーフエルフを超える魔力量を持つ者もいるらしい。
「まあ、わかりやすい例で言えば魔王クラウスがそれに当たるかな」
「す、すげえ⋯⋯」
(フフン!)
俺の中にいるヤツが『ドヤ顔』で胸を張るイメージが浮かぶ。
「ちょっと待ってよ、パパ! それだったらその生き証人のお師匠様が今、世界に真実を伝えればいいじゃない!」
「それはできない」
「どうして?!」
「それは⋯⋯アリストファレス以外の国のほとんどの王が、この魔族襲撃を『けしかけた者』を支持したからさ」
「そ、そんな⋯⋯」
ティアラが青ざめた顔で『信じられない⋯⋯』と項垂(うなだ)れる。
「彼らはこの『真実』が表に出ることを何よりも恐れた。その為、戦争終結後わずか半年足らずで『魔族は全滅させるべきだ』という意見が多数を占め、すぐに『魔族討伐隊』が結成された」
「な、なによ、それ⋯⋯」
ティアラの青ざめた顔が、納得のいかない話だからなのだろう⋯⋯今度は徐々に真っ赤に染まっていった。優しさと正義感の強いティアラらしい反応だった。
「お師匠様は各国の動きを見て『真実』を話すことをやめた。何故なら真実を話したところで処刑されるか牢獄に入れられるかのどちらかになるのが確実だからね」
「なるほど⋯⋯」
「しかし、その中で唯一納得していない国王がいた。それがこのアリストファレスの当時の国王だ。国王もお師匠様と同じく独自に調査していたらしい。そして、そんな時に二人は出会い、それから『真実』を明るみにする為の証拠を見つける為、目立たないよう調査を続けることとなった」
「パパのお師匠様って⋯⋯すごいんだね」
「ん? ああ、まあな。ちょっと難しい人でもあるがね⋯⋯はは」
「ん?」
オリヴァーさんは俺とティアラを見て何故か苦笑いを浮かべた。
「は、話を戻そう。その後、アリストファレスの国王は表向きは『真実を知らない者』という立場で動き、決して悟られないようにしていた。しかし、時は流れ、いよいよ代替わりとなった時、国王は悩んだ末、子供に『真実』を伝えることをやめた」
「ど、どうして?」
「あまりにも危険な『秘密』であったというのもあるが、国王が代替えする頃の世界はもうすでに『真実を隠す者たち』が世界の覇権をほぼ手中に治めていたからだ」
「そ、そんな⋯⋯」
「それに、子供に伝えることで奴らに見つかってしまい『真実』もろとも闇に葬り去られることを当時の王は何よりも恐れた。結果、それ以降のアリストファレスの国王は『真実』を知らないまま歴史を重ねていく。しかし、今⋯⋯現国王が誕生してから事態は急変する」
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