第61話051「双蛇の鎖(ノス・コストラ)」



「ジュリオ・マキャヴェリ。お前、なぜ、双蛇の鎖ノス・コストラを追ってる?」

「!? な、なぜ、その名を⋯⋯」


 先ほどまで涼しげで余裕さえ感じさせる表情から一変——驚きと同時に一気に警戒レベルを引き上げ、今にもハヤトに食ってかかるような表情で問いかけた。


「ノ、ノス、コス⋯⋯何⋯⋯?」


 ティアラはハヤトが口に出した言葉にまったく心当たりがなく首を傾げる。そして、それはハヤトとジュリオ以外の皆も同様だった。


「ジュリオ・マキャヴェリ。双蛇の鎖ノス・コストラを追っているらしいが、お前はそいつらがどういう存在かわかっているのか?」

「それはこちらのセリフだ、ハヤト・ヴァンデラス。本来、双蛇の鎖ノス・コストラの名を知っていること自体、普通はあり得ない。お前は一体、何者だ?」


 ハヤトとジュリオが一層険しい表情で探りを入れる。


「ちょ、ちょっと、待ってよ、二人とも! どうして、その⋯⋯ノスなんとか、の名前を出しただけでこんな一触即発状態になるのよ?!」


 ティアラがそう言って二人の間に入った。


「どけ、ティアラ・ヴァンデラス。これは君には関係ないことだ」


 ジュリオはティアラにピシャリと警告に近い言葉をかける。


「いや、そんなことはないぞ、ジュリオ・マキャヴェリ」

「何っ?!」

「⋯⋯え?」


 ハヤトもジュリオと同じように自分を話に入れないような言葉をかけると思っていたが、ハヤトの言葉はジュリオとは逆のものだったことにティアラが一瞬、固まった。


「ティアラだけじゃない。ここにいるメンツはすべて双蛇の鎖ノス・コストラに関係するものたちだ」

「は?」

「え?」

「何?!」


 ハヤトの言葉に今度はカルロ、ベロニカ、ソフィア・ハイマンが固まる。


「ハヤト・ヴァンデラス⋯⋯貴様、何を考えている?」

「⋯⋯実は、ここにこのメンツが集まったのは偶然ではない。俺がそう仕向けたものだ」

「「「「!!!!!!!!!!」」」」

「ど、どういうことなの、ハヤト⋯⋯?」

「ティアラ、ソフィア先生、ベロニカ⋯⋯そして、カルロ、ジュリオ・マキャヴェリ。ここにいるこのメンツを中心に俺は双蛇の鎖ノス・コストラを潰そうと思っている」

「な、何だとっ?! 双蛇の鎖ノス・コストラを⋯⋯潰す、だと?」


 ジュリオがハヤトの言葉に驚愕の表情を浮かべる。


「ちょ、ちょっと待ってよ、ハヤト!」

「ティアラ?」

「こっちは今、あんたがいろいろ放った言葉に軽く混乱起こしているの! だから、ちょっと順序立てて話をして! まずは⋯⋯双蛇の鎖ノス・コストラて何者なのよ?!」

双蛇の鎖ノス・コストラとは、この世界を裏で操っている組織だ。わかりやすく言うと、これまでティアラたちに伝えた『自然界からの魔力供給』やベロニカにやった『魔力譲渡』といった技術を数百年間隠してきた連中だ」

「ハ、ハヤト。今、サラっとすごいこと話してない?」

「すごいも何も事実だ」

「おい、ハヤト・ヴァンデラス! 何だ? その『自然界からの魔力供給』や『魔力譲渡』というのは⋯⋯」

「ん? ああ、それはまた今度教えてやる。だが、今はそういうことを話するためにこの場を計画したのではない。双蛇の鎖ノス・コストラを潰すにあたっての話だ。そして、もう一つ、この場を設けた理由はジュリオ・マキャヴェリ⋯⋯お前と話がしたかったからだ。俺はお前が双蛇の鎖ノス・コストラを追っている理由を⋯⋯⋯⋯知っている」

「?!」

「⋯⋯お前は病気で亡くなったと思っていた母親が実は双蛇の鎖ノス・コストラに殺されたことを知り、それから双蛇の鎖ノス・コストラに復讐するためだけにこれまでずっと生きてきた⋯⋯違うか?」

「お、お前⋯⋯何故、そのことを⋯⋯」

「そして、俺はそのことを知ってお前に一つ言いたいことがある。それをここで言わせてもらう⋯⋯」

「言いたいこと?」

「ジュリオ・マキャヴェリ⋯⋯お前も俺と一緒に来い! お前が今、計画している規模では双蛇の鎖ノス・コストラを潰すことはできない!」

「⋯⋯っ!?」

「に、兄さん⋯⋯」

「⋯⋯カルロ」


 すると、ここでカルロがハヤトの言葉を聞いて戸惑いの表情を浮かべながらジュリオに話しかける。


「か、母さんは⋯⋯病死じゃなかったの?」

「⋯⋯ああ。母さんは双蛇の鎖ノス・コストラの刺客に⋯⋯⋯⋯殺された」

「!? ま、まさか⋯⋯」

「これを知っているのは私だけで父さんも知らない」

「⋯⋯え? 父さんも?」

「ああ。奴らが巧妙に事実を隠し、そして⋯⋯⋯⋯ねじ曲げた」

「そ、そんな!?⋯⋯マキャヴェリ家は四大公爵の中でも情報収集能力は高いはずでしょ?」

「ああ。だが、私が追っているこの双蛇の鎖ノス・コストラという組織は、我がマキャヴェリ家以上の組織だ。正直、比べ物にならないくらいにな」

「なっ!? そ、そんな、馬鹿な⋯⋯」


 カルロが兄ジュリオの言葉に愕然とする。


「そもそも、奴ら⋯⋯双蛇の鎖ノス・コストラという秘密組織は『国』という概念を持たない集団だ。そんな世界を跨ぐ大組織に比べれば一国の⋯⋯ましてや小国であるアリストファレスの四大公爵程度の影響力しか持たないマキャヴェリ家など相手にならない」

「ま、まさか⋯⋯そこまでの組織なのか? その双蛇の鎖ノス・コストラという集団は⋯⋯」


 ソフィア・ハイマンがジュリオの言葉に信じられないと言いたげな顔で問いかける。


「はい。それに⋯⋯それだけの組織力がありながら、彼らは何百年も表に名は出てきません。いや、むしろ、何百年も表に名を出さないことができる⋯⋯それだけの組織です」

「し、信じられん⋯⋯」


 ソフィア・ハイマンが青ざめた表情で言葉を失う。


「⋯⋯さて、それでハヤト・ヴァンデラス? お前はその大組織をどうやって潰そうと考えているのだ?」

「⋯⋯」


 ジュリオの問いかけに対するハヤトの返事を皆が固唾を飲みながら注目した。


「俺は⋯⋯アリストファレス国王、ジャンノアール・アリストファレスと共に双蛇の鎖ノス・コストラを掃討を考えている」

「なっ!? ジャンノアール・アリストファレス国王様と共に⋯⋯だと!」

「「「「!!!!!!!」」」」


 そして、ハヤトの口から初めて計画の全貌が語られることとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る