第62話052「三ヶ月後」第二章 完



「ピンポンパンポーン⋯⋯これより『アリストファレス防衛学院武闘トーナメント』の開催式が始まります。生徒の皆様は武闘場に集まってください。繰り返し、これより『アリストファレス防衛学院武闘トーナメント』の開催式が始まり⋯⋯」


 校内に『アリストファレス防衛学院武闘トーナメント』の開催式を告げるアナウンスが響き渡った。


「一年合同魔術演習から三ヶ月⋯⋯あっという間だったわね、ハヤト」

「ああ」


 ティアラの言う通り、今はあの一年合同魔術演習から三ヶ月が経過していた。


 S級魔物クリムゾンオークを倒した後、その場に集まったハヤト、ティアラ、カルロ、ベロニカ、そして⋯⋯生徒会長ジュリオ・マキャヴェリたちはハヤトの話を聞いた後、手を組むこととなり、その後、各々がこの武闘トーナメントに向けて特訓をしていた。


「おはよう、ハヤト」

「おはよう、ベロニカ。新魔力供給の成果はどうだ?」

「ふ⋯⋯新魔力供給など私の手にかかれば大したことなど⋯⋯」

「その割には一番苦戦していたでしょ」

「な⋯⋯っ?! ティ、ティアラ! あなたいい加減にしなさいよ!」

「何よ、本当のことじゃない?」

「フ、フン⋯⋯ちょっと精霊スピリタスとの相性がいいからって少し調子にのっているようですが、まあ、いいでしょう。精霊スピリタスとの相性が良いのと強さは別ですから。私はあなたみたいな下品で直線的な戦いしかできない脳筋ではなく、常に計算高くエレガントな勝利を収める真の勝者です。その格の違いを試合では見せて差し上げますわ」

「の、脳筋ですって〜〜っ!」

「何よ?」

「何よ!」

「はいはいはいはい⋯⋯わかりましたから。お二人とも怒りの鉾を一旦納めてください」

「フン!」

「フンだ!」


 二人の間に入ったカルロが慣れた感じで二人をコントロールし場を収拾した。


「いや〜、それにしても驚いたよな。合同演習の後、まさかあのベロニカ・アーデンブルグもD組に移動するなんて⋯⋯」

「⋯⋯そうだな」


 ライオットの言う通り、ベロニカ・アーデンブルグはあの一年合同魔術演習の後、D組へと移動してきた。理由は周囲から魔力を供給する『新魔力供給を学ぶこと』ということではあるが、学年の違う三年のジュリオ・マキャヴェリもいるので訓練は学院が休みのときに行うこととなっていた。なので、別にベロニカはクラスを移動しなくても問題ないと話をしたが、


「いいえ! 何が何でもわたくしはD組にいきます!」


 と、何故か頑なな態度を見せ、D組へと移動することとなった。


 ちなみに昔から何かと因縁のあるティアラとベロニカだったので最初はギスギスしていたが、一緒に訓練をするようになると、お互いがお互いをそれなりに認めるようになったこともあり、ベロニカがティアラに『名前呼び』するくらいには以前より良好な関係になっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さて、いよいよだな」

「ハヤト⋯⋯兄さんから話は聞いているな?」

「ああ、もちろんだ。この学院の生徒の中に双蛇の鎖ノス・コストラの幹部がいることだろ?」

「ああ」

「俺も以前からその情報は知っていたが確証はなかった。しかし、ジュリオやお前たち⋯⋯マキャヴェリ家のおかげで確実に情報を掴めてよかったよ。ありがとう、カルロ。ジュリオにもお礼を言っておいてくれ」

「ああ、もちろん。しかし、君は本当に何者なんだい? 君は僕たちに双蛇の鎖ノス・コストラのことやこれからやることについてのことは教えてくれたけど、肝心の君のことはまだ教えてはくれないじゃないか」

「悪いな。いろいろとあってな。然るべき時がきたらちゃんと話す」

「ふ⋯⋯まったく、君ってやつは⋯⋯」

「さて⋯⋯⋯⋯それじゃあ俺たちもそろそろ会場へと向かうぞ」

「「「「おおーーーーーー!!!!」」」」


 ハヤトの合図でD組の生徒たちは意気揚々と武闘場へと向かった。


「いよーし! これまでの特訓の成果をみせてやるぜ!」

「ああ! なんたってこれまで普段の授業ではこの新魔力供給は隠してきたからな!」

「そうそう。ぶっちゃけ三ヶ月前と今とでは全然違いすぎるし!」

「本当よねー。今でも新魔力供給のことが信じられないくらいよ!」


 D組の生徒たち皆がこれから始まる武闘トーナメントに対し、意欲に満ちていた。三ヶ月前⋯⋯いや、一年合同魔術演習の頃は魔術士ランキングが低いことやD組の生徒であることに対し劣等感の塊だったというのに、新魔力供給を得た今では皆が自分に自信を持ち、戦うことへの意欲、挑戦することへの意欲に燃えていた。


 そう⋯⋯すべてはあの一年合同魔術演習の後の新魔力供給の特訓から始まったのだ。


 そうこうしている内にハヤトたちD組の生徒は武闘場への入口に着いていた。


「さて⋯⋯それじゃあ入るぞ」

「おお! これからD組の新風を巻き起こしてやるぜぇぇーーーっ!」


 そう、勢い強く叫ぶのは脳筋グルジオ・バッカイマー。


「イエーイ! 巻き起こすぜーーっ!」


 グルジオの勢いに乗っかったのは兎型獣人のエマ。ちなみに勢いだけじゃなく『ひしっ!』とグルジオの太い腕にエマは腕を絡めて思いっきり寄りかかっていた。まるで「当ててんのよ!」というエマの心の声が聞こえるくらいに。


「あんたたちはもう少し落ち着きなさい。この脳筋カップルが!」


 二人にツッコミを入れるシャロン・リズベル。


 ちなみにグルジオ・バッカイマーとエマは新魔力供給の特訓の間にすったもんだがあったがカップルとなった。当初はシャロンや周囲も二人を祝福していたがその後、予想以上に周囲を気にすることなくベタベタする二人を見て「このバカップルめ!」「リア充爆ぜろっ!」とツッコミを入れられる扱いとなる。


「おお、来たか」

「「「「ソフィア先生!!!」」」」


 中に入ると、ソフィア・ハイマンが声を掛ける。


「さあ、もう式典が始まる、ビシッとしろ、お前らっ!」

「「「「は、はははははいぃぃぃーーー!!!!」」」」


 さっきまでの少し浮かれすぎな生徒たちにしっかりと楔を打つ。


「さすがですね、先生」

「ふ⋯⋯お前ほどではないがな」


 ハヤトとソフィアはお互いを見てフッと笑う。


「いよいよ、始まるな、ハヤト・ヴァンデラス」

「はい。すべてはここから⋯⋯この武闘トーナメントから始まります」

「うむ」


 ハヤトとD組の生徒、そしてソフィア・ハイマンに生徒会長ジュリオ・マキャヴェリ⋯⋯彼らの戦いはこれから本番を迎える。様々な思惑を秘めた『アリストファレス防衛学院武闘トーナメント』がいよいよ始まる。



 第二章 完


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異世界ハードモードをクリアせよっ! mitsuzo @mitsuzo_44

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