第60話050「初接触」
「我が国、アリストファレスの国王であるジャンノアール・アリストファレス様を呼び捨てにし、魔術士ランキング最下層の
「随分⋯⋯詳しいじゃないか」
「もちろんです。一度あなたとはゆっくりと話したかったですからね」
「! ほう⋯⋯?」
二人の会話を固唾を飲んで見守る四人。
「⋯⋯こちらに来る前にカルロが介抱していたA組の生徒たちは救援要請で来た二年と三年の皆が対応しています。そして、今、ここにいるのは私たち六人のみです⋯⋯」
「⋯⋯何が言いたい?」
「⋯⋯あなたのことは調べさせていただきました。ハヤト・ヴァンデラス」
「⋯⋯」
「「「「!!!!!!!!!!」」」」
ジュリオの言葉にハヤトは冷静だったが周囲の皆が驚愕する。
「に、兄さんっ!? どういうことですかっ! そんなの⋯⋯僕は一言も聞いて⋯⋯」
カルロも兄ジュリオの話は初耳だったようで、普段あまり兄に対し反抗の色を見せないカルロが抗議する。
「何をそんなに動揺している? 接触する相手を調べるのは当然のことだろう?」
「で、ですがっ! それだと、まるで⋯⋯⋯⋯私がハヤト・ヴァンデラスを兄さんに売ったみたいじゃないですかっ!」
「カ、カルロ、お前⋯⋯」
ジュリオがカルロの言葉に一瞬、驚きの表情を見せた⋯⋯その時、
「何⋯⋯特に問題はない、カルロ」
「!? ハ、ハヤト⋯⋯」
「別に俺はお前が兄に俺を売ったみたいな、そんなチンケなことは微塵も思っていない。むしろ、お前がそこまで俺に対して信頼を傷つけまいとした言葉⋯⋯⋯⋯うれしかったぞ」
「ハ、ハヤト⋯⋯」
ん? カルロの奴、何をあんなに顔を紅潮させているんだ? カゼか?
「ずいぶんと⋯⋯⋯⋯弟を
「誑かす? 何を言っている?」
「ふ⋯⋯まあ、いい。それよりもお前の素性は調べた。お前は元々⋯⋯孤児だろ?」
「⋯⋯ああ」
「何っ?!」
「え! そうなの?!」
ジュリオの言葉にベロニカとカルロが反応するが、逆にティアラは眉を寄せ顔を俯く。
「ああ、そうだ、カルロ、ベロニカ・アーデンブルグ。こいつは孤児でゲデリック夫妻に拾われ育てられた。元々の名は⋯⋯ハヤト・ゲデリックという」
「「「⋯⋯」」」
ジュリオの言葉にティアラ以外の者たちがショックのあまり言葉を失っている。
「⋯⋯その後、森で
「こ、孤児だった少年を⋯⋯王宮魔術士オリヴァー・ヴァンデラス様が養子に? そ、そんなの⋯⋯あり得ませんわ」
ベロニカ・アーデンブルグがジュリオの言葉に反論する。
「ああ、常識で考えればな。しかし事実だ、ベロニカ・アーデンブルグ」
「ほ、本当に、四大公爵と並ぶ『格』を持つ王宮魔術士のオリヴァー・ヴァンデラス様が⋯⋯孤児を養子にするなんて⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ!? ま、まさか! 孤児にした理由というのは⋯⋯!」
「ああ、推測ではあるがおそらく彼⋯⋯ハヤト・ヴァンデラスの『魔力』だろう⋯⋯」
「な、なるほど⋯⋯」
「⋯⋯」
ベロニカはジュリオの推論に納得の表情を見せる。しかし、ティアラは別のことを考えていた。
(ジュリオ様が調べた情報⋯⋯⋯⋯『私のこと』が記されていない? あと『魔王クラウス』のことも⋯⋯なんで?)
ティアラはチラッとハヤトの顔を見る。すると、一瞬だが顔が綻んだように感じた。
(ま、まさか! ジュリオが得た情報というのはハヤトがジュリオに
「⋯⋯しかし、その後、ヴァンデラス家に養子となってすぐにお前は三年間行方を眩まし、その後。現れ、この学院へと入学した」
「⋯⋯なるほど。よく、そこまで調べたな。通常であれば俺の身元は『ヴァンデラス家の養子』程度しかわからないはずだが」
「ふ⋯⋯マキャヴェリ家の情報収集能力を甘く見るなよ」
「ふ⋯⋯そのようだな」
(うわー、ハヤトのあのドヤ顔。もし真実を知ったらジュリオ様立ち直れないほどショック受けるだろうなー)
ティアラはハヤトが涼しい顔で騙しているのを見てふと思う。
(でも⋯⋯ハヤトはどうしてわざわざジュリオ様を騙しているんだろう?)
「ところで⋯⋯⋯⋯逆に今度はこちらから質問したいのだが構わないか?」
ふいにハヤトがジュリオに質問をしたいと問いかけた。
「ん? ああ、問題ないぞ。何が聞きたい?」
「⋯⋯⋯⋯
「?! い、今、なんて⋯⋯」
「ジュリオ・マキャヴェリ。お前、なぜ、
「!? な、なぜ、お前が、その名を⋯⋯」
先ほどまで涼しげで余裕さえ感じさせる表情から一変——驚きと同時に一気に警戒レベルを引き上げ、今にもハヤトに食ってかかるような表情で問いかけた。
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