異世界ハードモードをクリアせよっ!
mitsuzo
第一章 生い立ち(TUTORIAL)
第1話001「ハヤト・ゲデリック」
『ハヤト様ならきっと成し遂げられます……幸運を』
その言葉を最後に俺は深い眠りへと落ちていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハヤトーー! さっさと酒、買ってこい!」
ドカッ!!
「か、かはっ?!」
ベッドで寝ていた俺は突然、布団から投げ出さ思いっきり床に腰を打つ。
見ると、さっきまで上機嫌だったはずの男が突然不機嫌になり、そのせいで俺は八つ当たりで投げ飛ばされたようだった。
「ったく、グズグズすんじゃないよ! 本当、使えない子だね~!」
「……」
「なんだい、その目は? 生意気に何……ガンくれてんだよぉ!」
バシッ!!
「早くいってきなっ! このウスノロぉ!!」
「い、いってきます……」
俺はそこから逃げるようにして出て行った。
最初に殴った人は俺の父親で、次に殴られたのが母親で、そして逃げるように出て行ったその場所は……自分の家だ。
世間では誕生日は両親に祝ってもらいプレゼントをもらうと聞いたことがある。
だが、そんなの俺は信じちゃいない。
だって、俺は十二歳になる今までそんなの一度ももらったことがないし、今日だって……俺の『誕生日』なのにプレゼントどころか二人から殴られただけだ。
町はずれにある家から数キロ歩くと市場が見えてきた。
俺は酒とつまみを買いに酒屋に行くが、そこの店主は俺を見るや否や、眉間に皺を寄せ、あからさまに嫌な顔で言葉を吐き捨てる。
「ゲデリックんとこのガキか。お前みたいな辛気臭い顔したガキが店の前にいると客が寄り付かなくていい迷惑なんだよ!」
「す、すみません……」
「ったく! 辛気臭い顔ってだけでも腹立つのに『黒髪』ときてやがる。黒髪の辛気臭いガキなんて不気味なんだよ! 早く金出してとっとと消えろ!」
「す、すみません! すみません!」
俺は急いで酒とつまみの代金を渡してその場から逃げるように去った。
俺は村の皆から嫌われていた……まあ察しは付くのだが。
それは今、酒屋の親父が怒鳴った言葉の中にある。それは俺の顔が『辛気臭い』というのともう一つ……俺の髪が『黒髪』というのが一番の原因だ。
『黒髪』については俺は詳しくは知らないが、この前こっそり村の学校を覗いたとき、ちょうどその話を先生が話していたのを何となく覚えている。
先生の話だと、昔、俺たち人間と魔族が戦争をしたときにその魔族の王で『魔王』と呼ばれていた男が『黒髪』だったらしく、それ以来、この国では『黒髪』は不吉を象徴するものとされている、というようなことを話していた。
ちなみに、多くはないが俺以外にも『黒髪』の奴はいるにはいるのだが、そいつらは『黒髪』のままだと周囲から『村八分』にされることを知っているので、一般的な家庭の場合、子供が『黒髪』の時は生まれてすぐに親が髪を染め、大人になってもずっと髪を染め続け生きていくことになるらしい。
しかし、一般的でない……所謂、貧乏な家庭だと髪を染めるお金が無いのでそんな家庭の子は『黒髪』のまま生きていくこととなる。
そういった事情もあって『黒髪』のイメージは今では『不吉なもの』から『不潔』『貧乏』『乞食』といった意味で捉えられることが多くなったと先生は付け加えて説明していた。
そんなわけで黒髪の俺が村の人から嫌われるのは、この世界の道理であり常識なのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
買い物の帰り、市場を出てしばらく歩くと住宅地が広がっている。
「何だろう? 今日はいつもと違って賑やかだな……」
そんなことを思いながら歩いていると暖かい光がこぼれる家に目が行った。するとその家から楽し気な子供の声が聞こえてくる。
「今日は何の日か知っているかい?」
「クリスマス~!」
「そうだ! 良い子にしてたかな~?」
「してたー!」
「えらい、えらい。これは良い子にしてた君へのプレゼントだよ~!」
「わ~い、お父さん、ありがとう!」
どうやら今日は『クリスマス』という特別な日らしい。窓には子供が親からもらったプレゼントを抱えてはしゃぐ光景が映っていた。
「……いいな」
本当は知っていた。
誕生日にプレゼントがもらえることや、クリスマスもプレゼントがもらえることを。
本当は知っていた。
俺の家は普通と違うということを。
本当は知っていた。
俺はあの父親と母親の本当の子供じゃないことを。
だからどうした?
十二歳になった今でも俺の本当の両親は迎えに来ない。
そりゃそうだ。
だって俺は捨てられたんだから。
そんな捨てられた俺を今の父親と母親が拾った。理由は俺を育てて二人の奴隷として働かせるためだ。だから、十二歳になった今も俺は学校なんて行ったことがないし、もちろん友達もいない……というより、学校に行かない俺は村では『腫れ物』扱いされていたので、子供はおろか大人たちでさえも俺に関わらないようにしていた。
まあ、別に"それくらい"なら死ぬことはないので問題ないが、それよりも俺の家庭環境が何よりも大問題だった。
というのも、俺は物心つく前からマトモなご飯を食べたことがない。
食事は、二人の『残り物』しか食べさせてもらえなかったので、食べ残しがなければその日の食事にはありつけず、ヒドイ時にはそれが数日続くこともあった。
さすがに栄養失調になる直前までいったときは食べさせてもらえたが、いつも二人の残り物があるかどうかは俺にとって『生死を伴う』ほど大事なことだった。
そんな育て方をされた俺は十二歳まで何とか生き永らえたが、同い年くらいの子供と比べるとかなりやせ細っていた。
「さむ……」
――季節は冬
これから家に帰っても食事にありつけるのかわからないので、俺は少し森に寄って木の実をいくつか拾って家に戻った。
これまでの十二年間、俺は死なない為にこうやって森で木の実や果実を拾って食いつないできた。そのおかげで俺は森で食べられるものと食べられないものの判断が完璧にできるまでの知識を身につけた。
人間、生死が関われば何とかなるもんだ。
拾った木の実を俺はバレないように隠して持って帰り、それを食べることで何とか生き延びてきた。
これが俺……ハヤト・ゲデリックの日常である。
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