第11話002「遅れてきた一年生」
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『アリストファレス防衛学院』
この世界で生きる人間種の国では十五歳で『成人』とみなされる。そして、成人になると社会に入る前の準備段階として三年間、国が運営する国防を担う学校へと行くことが義務付けられている。
というのも、今の世界は昔に比べると平和になったとはいえ、人間種の国同士の争いや種族間の争いなどが存在している。その為、有事の際にすべての成人が対応できるよう教育と人材育成を兼ねた教育機関があり、当王国においてはこの『アリストファレス防衛学院』がその中核を担っている。
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「国同士の争い⋯⋯ね」
学校に着くまでまだ少し時間があったので、私は馬車の中で『アリストファレス防衛学院のしおり』というこれから自分が通う学校の資料を読んでいた。
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国によって『人間種だけの学校』と『多種族を受け入れている学校』と分かれており、当学院は後者にあたります。理由としては、当学院では種族を超えた多様性を重視することにより、異種族交流による『技術革新』や『人材発掘』を最重要指針と捉えているからです。
ですので、当学院の生徒においては狭い範囲の視野や物事の捉え方を少しでも改善し、常識に囚われない考え方と広い視野を持った人物へと成長してくれることが私たち学院の真の願いです。
どうか、学院生活の三年間を有意義に過ごしてください。
アリストファレス防衛学院
学院長 ジャンノアール・アリストファレス
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「人間種以外の種族を受け入れている学校、異種族交流、常識に囚われない考え方、そして、学院長はジャンノアール・アリストファレス⋯⋯国王様か。これも、お父様が言っていた『告発の準備』の一環なんだろうな〜」
私はふと、これまでの三年間のことを思い出していた。
三年前——魔王クラウスとハヤトの『融合』の問題の解決と、ハヤト自体が持つ豊富な魔力を活かすための修行も兼ねて、お父様はハヤトを連れてお師匠様のところへ向かった。当初、お父様は、
「しかし⋯⋯お師匠様が素直にハヤト君を迎え入れてくれるかどうか⋯⋯」
と、かなり心配をしていた。実際、お父様は家から発つ日に『戻るのは早くて四、五日⋯⋯遅ければそれ以上かかるだろう』と言い残して重い足どりで出発した⋯⋯が、それから二日ほどですぐに戻ってきた。話を聞くと、
「あの気難しいお師匠様がハヤト君を一目見た途端、何故かすぐに引き入れてくれてな。ハヤト君を結界の中に入れるや否や私のことは無視してすぐに結界を閉じてしまったんだ。まあ、ハヤト君を気に入ってくれたようでよかったが、それにしてもあの喜びようは⋯⋯謎だ」
と、お父様はかなり驚いた様子で話していた。
「一体、何なのよ? どうしてそんなにハヤトのことを? しかも初めて会ってすぐに⋯⋯」
今の状況でその話を思い出すとお師匠様の反応が謎すぎると改めて感じた。また、それと同時に、
「ていうかハヤトの身が危険なのでは? いろいろな意味で⋯⋯」
と、ハヤトを一人占めしてその結界の中で何やら如何(いかが)わしいことをしないかと私は心配⋯⋯、
「な、ななな、何よ! い、いいい、如何わしいことって! わ、私ったら、一体何を考え⋯⋯いやぁぁ〜〜〜!!!」
一人、妄想爆発させ自爆したタイミングで馬車はちょうど学校の正門前に到着した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
入学式は『武闘館』という学校内にある一際(ひときわ)大きな建物で行われると『しおり』に書いてあった。実際、学校に入るとすぐにそれらしき大きな建物が目に入った。
「校舎からは少し離れているのね。あと運動場は校舎を挟んで向かいにあるんだ⋯⋯ふむふむ」
私は歩きがてらどこに何があるのか『しおり』と照らし合わせがらゆっくりと歩を進めていた。すると、
「おっはよー、ティアラー!」
「おはようございます、ティアラさん」
「おはよう。イザベラ、マリー」
中等部時代の親友であるイザベラとマリーが声をかけてきた。
「で? あんたが言ってた『愛しのハヤト君』はどこ?」
「ちょ⋯⋯イ、イザベラ! やめてよ!」
「ティアラさん⋯⋯私、興味津々マルです!」
「マ、マリーまで! ていうか『興味津々マル』て何よ?」
「うふ。よかったですか? 今日イチオシのネタです」
「あ、いや、その、ノーコメントで。はは⋯⋯」
今、やりとりした不思議ちゃんのマリアンヌ⋯⋯マリーはちょっと天然の入った実に変わった子であるが、知らない人からすれば物静かな佇まいで品のあるその姿は『さすが四大公爵家の一つベルガモット家のお嬢様だ』と言って誰もが尊敬の眼差しを向ける。実に『見た目詐欺』街道まっしぐらなのだ。
そして、もう一人の親友イザベラもまた四大公爵家の一つ『カンツォーネ家』のお嬢様だが、マリアンヌ⋯⋯マリーとは違い、見た目通りの男勝りの明るい性格の持ち主だ。
その性格のおかげ⋯⋯というのも変だが、男勝りのイゼベラと一緒にいると私はだいぶ乙女に見られる。自分で言うのも癪だが、中等部の頃の私はハヤトがいない『鬱憤』を学校で晴らしていた。結果、いつの日からか皆から『女番長』と呼ばれ、しまいには『
そんな親友である公爵令嬢の二人と私は他愛のない話をしながら会場へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハヤトはやっぱり間に合わなかったのね。はぁ⋯⋯」
入学式はハヤトがいないまま始まった。
わかっていたこととはいえ、少しの可能性に期待していた私は一人落ち込む。
舞台では急用で来れなくなった学院長である国王様のかわりに、副学院長が国王様が書いた挨拶の内容を読んでいた。
副学院長の挨拶が終わると、次に生徒会長の挨拶ということで生徒会長の名前が呼ばれた。
「続きまして、当学院の生徒会長『ジュリオ・マキャヴェリ』の挨拶です」
その時、数人の生徒がザワザワし始める⋯⋯主に女子生徒が。
「初めまして、新入生の諸君。生徒会長のジュリオ・マキャヴェリです。ようこそ、アリストファレス防衛学院へ」
「きゃー、ジュリオ様よー!」
「なんて凛々しいお顔⋯⋯」
「かっこいいー!」
女子生徒の黄色い声が一斉に館内に響く。
「す、すごい人気ね⋯⋯」
「そりゃー、四大公爵の中でも影響力の高いマキャヴェリ家の次期当主だもん! いや〜お近づきになって安定の未来を手に入れたいな〜」
「この人が『マキャヴェリ家の至宝』⋯⋯ハンサムオーラ、すごい」
隣にいるイザベラとマリーが各々で感想を述べる。
「入学して慣れるまでは何かと困り事や不安事などがあるかと思いますが、そんな時は遠慮なく生徒会を頼ってください。生徒会はいつでも歓迎します」
「きゃー! 行くー! 絶対行くー!」
「むしろ、今から行っていいですかー!」
ワー、キャー、ワー、キャー⋯⋯。
一年の女子生徒の歓声が一際大きく館内を包む。
「ありがとう、みんな! ではこれで、生徒会長ジュリオ・マキャヴェリの挨拶としていただき⋯⋯」
ガラガラガラ!
「ふう、どうやら間に合ったようだな」
生徒会長の挨拶の途中に会場入口の扉が開く。すると、そこから一人の生徒らしき男が入ってくると皆が彼に注目した。
「何だ⋯⋯君は?」
生徒会長がそんなハプニングにも冷静な対応で『乱入男』に言葉をかける。
この退屈な式典をぶち壊した『乱入男』に興味を持った私も会場入口に目を向けた。
「え⋯⋯?」
そこにいた『乱入男』に私は⋯⋯絶句する。
「今日からこの学校に通うことになった、ハヤト・ヴァンデラスだ」
三年前のあの『卑屈な面影』は一切なく、むしろ卑屈どころかどっしりと構えた『オレ様』的な雰囲気を醸し出す最愛の弟がそこに立っていた。
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