第35話026「お昼休み -マリア・ウィンスター視点-」



 皆が少し冷静になったのを機にソフィア先生が口を開いた。


「ハヤト・ヴァンデラス。お前、一体何を考えている?」

「どういうことだ?」

「お前の今言ったことが本当ならそれは世界を混乱させるぞ」

「⋯⋯そうだな」


 ハヤトがソフィア先生の言葉を肯定した。


「そこですぐに肯定するということは⋯⋯⋯⋯何か目的があるんだな?」

「そうだ。今はまだ言えないが少なくとも自分の信頼のおける者たちを強くしたいと思っている」

「信頼のおける者?」

「ああ。ソフィア先生とこのD組のみんな、そして、俺の姉であるティアラと、ティアラの友達のイザベラとマリーだ」

「⋯⋯なぜ、私なんだ?」

「俺の中ではソフィア先生は一番正義感や倫理観が自分と似ていて信頼ができる、と思ったからだ」

「!? お、お前⋯⋯そんな恥ずかしいセリフをよくもサラッと⋯⋯」


 ソフィア先生がハヤトのストレートな物言いに顔を赤らめながらため息を吐く。


「ソフィア先生が聞いたから答えたまでだが?」

「⋯⋯も、もういい」


 俺たちはソフィア先生が物言いで初めて負けたのを見て驚いた。しかも、ソフィア先生の表情を見ると何となく照れているように見える。あの生徒に恐れられているソフィア先生が乙女になるほどのハヤトのストレートな物言いはまさに『天然ジゴロ』というある意味一番やっかいで強力な武器と言えるだろう。


「ハヤト・ヴァンデラス。お前がそこまで言うなら私も付き合ってやろう。しかし、仮にお前の行動が正義に反する、倫理に反するものであれば私はお前を即座に全力で止める」

「ああ、それでいい。そういうところが俺がソフィア先生を買っているところだ」

「う、ううう、うるしゃいっ! そういうのはもういいと言ってりゅだろっ!」


 ソフィア先生が顔を真っ赤にしながらカミカミでハヤトを注意する。


 先生、キャラ崩壊してます。


 その後、俺たちは合宿所の施設に戻り、お昼を取りに行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 私の名はマリア・ウィンスター。


 D組の担任をしている。


 今回の一年合同魔術演習ではD組の生徒たちに組手形式で魔力の効率的な使い方を教えようと思っていた。ただでさえ、D組の生徒たちのように魔力が少ない者にとって、効率的な魔力使用は将来必ず役に立つ。それに効率的に魔力が使えるようになれば私の研究開発している『魔道具』をうまく使いこなせるはずなのでさらに将来に役立つ。


 私はD組の子たちが可愛いので皆が少しでも立派な魔術士になって欲しいと願っている。まあ、できれば『魔道具士』も目指して欲しいけど。


——お昼休み


 昼食は各クラスごとにテーブルが分けられての食事となる。食事は学生寮の料理人が四人来ておりその方たちが三日間の合宿での食事の面倒をみてくれる。ちなみにお昼はビッフェスタイルとなっており、皆が各々並べられた料理を取っていた。


 私は遅れて戻ってきたD組の生徒たちのテーブルをみつける。


 ちなみに午前の課題演習前にソフィア先生が私のところにやって来て「今日の課題演習は私がD組を担当したい」と直談判してきた。これまでそんなことを言う人ではなかったので私は驚いたがすぐにピンときた。


「ハヤト君⋯⋯ですか?」

「ああ」


 ソフィア先生が言うにはハヤト・ヴァンデラス君と以前指導という形で対峙した際、手加減はしたとはいえ下級魔術士ジュニアにも関わらず、S級魔術士クラスSの自分とそれなりにやれていたことと、まだハヤト君が『余力』を残していたことに興味を抱いたのだそうだ。


 確かに、ハヤト・ヴァンデラス君は『魔道具士研究者』の私からしても興味の対象である。


「皆さん、お疲れ様です」

「「「「マリアちゃん!」」」」


 生徒たちが一斉に私へ声を掛ける。まったく可愛い生徒たちです。


 ただ『マリアちゃん』はやめなさい。


「それでどうでしたか、ソフィア先生との午前の課題演習は?」


 私は皆に課題演習の内容を聞いてみた。すると、


「「「「秘密ですっ!」」」」

「なっ!? 何よ、それ〜〜〜!!!!」


 私は思いもよらない返答だったのでつい思いっきり声をあげてしまった。


「ひ、秘密って⋯⋯ソフィア先生はなんて言ってるんですか!」

「やあ、マリア嬢⋯⋯」

「!? ソ、ソフィア先生⋯⋯っ!」


 すると今度はソフィア先生がテーブルへとやってきた。ちなみにソフィア先生は私のことを『マリア嬢』と呼ぶ。一応、私、ソフィア先生よりも年上なんですけど⋯⋯?


「ていうか、マリア嬢はやめてくださいと何度も⋯⋯⋯⋯そ、それよりも! この子たちが午前中の課題演習のことを何も教えてくれないんですが一体何をやっていたのですか?」

「ん? ああ、それは秘密だ」

「えええええええええ〜〜〜〜!!!!!」


 生徒ならまだしもソフィア先生までもが「秘密だ」と言った。一体、午前の演習課題で何があったのだろう?


「あー、あと急な話で申し訳ないがさっき学院長に連絡を取り許可をもらったので報告しておく。今日から私はD組の副担任となったので以後よろしく頼む」

「は?⋯⋯⋯⋯はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜????」


 ちょっ?!


 マジ、午前に何があった! 何があったのよぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!


 そんなわけでA組の担任だったソフィア・ハイマン先生は、D組の⋯⋯しかも副担任という異例中の異例の『依願異動』となった。その為、A組の新担任は今年赴任したA組の副担任でA組の午前の課題演習を指導していた『エンリル・ザビト』先生がそのままA組担任へとこれまた異例の昇格となった。


 異例なこと多すぎっ!


「あ〜、それとティアラ・ヴァンデラス、イザベラ・カンツォーネ、マリアンヌ・ベルガモットも私と一緒にD組へと移動することとなった。よって午後の課題演習もD組で行うこととなるのでよろしく頼む」

「え? あ、あの⋯⋯A組の生徒がD組へ来るということ⋯⋯ですか?」

「そうだ。さて、午後の課題演習が楽しみだ」


 ソフィア先生は言いたいことを言ってさっさと席を立って行ってしまった。


「午後の課題演習は私も絶対に参加しよう。そして真相を突き止めてやるっ!」


 私はこの大きな変化の元凶である『ハヤト・ヴァンデラス』について何も知らないが、入学式で彼を見たとき彼の雰囲気はどことなく異質というか『圧倒的存在感』を感じさせた。いずれ調べたいと思っていたのでちょうどいい機会なのかもしれない。


 そうして私は昼休み後、D組の午後の課題演習を見にいくことになるのだが、そこで『ハヤト・ヴァンデラス』が私の想像以上の存在だったことに改めて気づかされることとなる。


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