第36話 最後の戦い②

「ツッ―――邪魔だ!!」


全力で走るフィンに、真正面から向かって行った中型四足竜の首がすれ違いざまに宙を飛ぶ。


速度を緩めることなく走るフィンの前方に、第一中隊に所属する幾つかの小隊の姿が近づいてきた。

小隊単位で戦っているため、個別に撃破されるのは時間の問題だろう。

助けてあげたいが、今は第五中隊が先だ。

横から現れた大型二足竜が氷のブレスをフィンに向かって吐き出すが、ジャンプ一閃、躱したフィンは大型二足竜に見向きもせず第一中隊の中に割って入る。


「第一中隊っ!個別に戦うな!全小隊固まって敵に当れ!!」


第一中隊の指揮権はフィンにはない。

だけどこんな状況で、ただ見捨てていくわけには行かないだろう。


走りながら一瞬で数匹の中型竜を屠り、あっという間に前方へ走り去っていく銀色の影に、第一中隊の面々はその後ろ姿を呆気にとられて見送った。


「あれは・・・・・・フィン・・・・・・なのか?」

「なんでフィンがここに?」

「一瞬で―――すげぇ!!」


次の瞬間、十数人の第二中隊の隊員がフィンの後を追いかけるように乱入してきた事で、敵の包囲が乱れる。


「今のうちに俺達も・・・・・・」

「ああ、フィンの言ったように他の小隊と合流するぞ!」


走り去っていく第二中隊の勢いに巻き込まれるように、第一中隊の幾つかの小隊はピンチを逃れ、協力して敵に当るようになっていった。



フィンは、銀の光は止まらない。

第一中隊を置き去りにしたフィンの五十メートル程前方に、別の小隊が敵に囲まれているのが目に入る。


(あれは!ヨルマかっ!!)


敵の壁に阻まれて前に進めないヨルマが、やたらめったらと聖剣を振り回しているのが視界に入る。

ヨルマには問い詰めたいことがたくさんあった。


(でも今は・・・・・・正直ヨルマの事はどうでもいい!)


あっという間にヨルマの背後に迫るフィン。


「はああああああっっーーー!!」


フィンは走ってきた勢いのまま、背を向けているヨルマの頭上に大きく跳躍する。


「ヨルマ―――!!」


跳躍したフィンの足がヨルマの赤い頭に―――着地した―――


「うおぉおお――――――!!」


その頭を土台にしてさらに跳躍したフィンは敵の壁の遥か上を越えて行く。


「ぐえぇ!」


いきなり頭に衝撃受けたヨルマは一体何が起こったのか理解できない。


「!!――――――」

「―――えっ!!!」


その光景を見ていた勇者小隊の聖戦士と賢者もあっけにとられたまま、敵の壁を越えて行くフィンを見送った。

そして、突然の衝撃から立ち直ったヨルマが呆然とした顔を上げた先には、銀色の光が敵の向こう側に消えていく残像だけが残っていた。


「一体・・・・・・なにが!?」


直後になだれ込んできた十数名の騎士、その光景を見ていたであろう第二中隊の勇者候補や聖戦士候補は、皆ニヤリとした顔をヨルマに向けた後、敵に突っ込んでいく。

ジャックなどは声を出して笑いながらヨルマの横を駆け抜けていった。




「―――ちくしょう!―――ちくしょう!―――ちくしょう!―――ちくしょう!」



第二中隊が嵐のように去っていった後、自分に何が起きたのか初めて理解したヨルマは屈辱に耐えられず、聖剣でひたすら地面を切りつけていた。


「・・・・・・フィンの奴・・・・・・殺してやる!ころしてやる!!コロシテヤル―――!」


怒りで周りが見えなくなったヨルマの周りには、態勢を立て直した敵が再び集まりだしていた。



「見えた!」


ヨルマの頭を踏み台にして敵の壁を超えたフィンの目は、とうとう第五中隊の姿を捉えた。

防御に徹する体制に切り替えたことで、第五中隊はまだ何とか戦線を維持していた。

少し速度を緩めて後ろを確認すると、穴を穿つように敵の壁を抜けてきた仲間第二中隊の姿が映る。その距離約20m程だろう。


「ウェイン!!すまないっ、後は任せた!」


後ろから近付いてきた勇者候補で第二小隊長のウェインに大声でそう告げると、フィンは再び全力で走り出す。


―――あと百二十メートル!


左右から迫る中型竜に大剣を一閃するとさらに加速する。


―――急げ!急げ!急げ!!!


正面に現れた超大型二足竜が炎のブレスを吐きだす。


「ツゥッッーーー」


直撃だけはギリギリで躱すも、炎に触れた左腕の鎧は溶けて、自分の肉の焦げる匂いがフィンの鼻孔に漂ってくる。

それでも速度は落とさずに敵の腹部に潜り込み、そのままの勢いで腹部を切り裂いたまま後方に滑り出す。


―――あと八十メートル!


フィンの姿に気づいた第五中隊のみんながフィンの方を向いている。


―――あと七十メートル!


フィンに気を取られた第五中隊の背後から複数の大型竜が襲い掛かろうとしている。


―――あぁ―――後ろに!!


声にならない叫びをあげるフィン。

前方上空から迫る飛竜に向かい、フィンは刃こぼれで使い物にならなくなった大剣を投げつけると、見事に大剣が突き刺さった飛竜は断末魔を上げてキリキリと落ちていく。


―――間に合えーーーーー!!


背中に背負った二本の予備の大剣のうち一本を引き抜く。


―――あと四十メートル!


背後から迫った大型竜に気づいた第五中隊の皆が後ろを振り向いた。

大型竜がその大きな口を開けたその前で銀色の髪が煌めいている。


「セシルッーーーーーー!!」


手を伸ばしたフィンの目に、その光景がスローで映し出される。

―――驚いているセシルの横顔。

―――そのセシルに覆いかぶさる巨大な口。

―――その口に向かい咄嗟に剣を突き出す女勇者候補。


だが次の瞬間、その口に咥えられたセシルの身体が高々と宙に上がった。


「フィンーーーー!!」

「!!!!!!!――――――」


フィンを呼ぶセシルの声に、フィンの時間が動き出す。


「―――セシルッッーーーー!!」


第五中隊のみんながその大型二足竜に襲い掛かるが、そいつはセシルを咥えたまま後方に向かって走り出した。


「―――うああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


敵の頭上を越え、そいつに向かって走り出すフィン。

だがその時、フィンを嘲笑うかのように、フィンの真横に白い矢が降ってくる―――


「がぁっ!?」


その白い矢による爆風で空中に大きく弾き飛ばされたフィンは、血しぶきを上げながら落ちていった。


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