第6話 決意と小隊
その後四人は別室に連れていかれ、選ばれなかった僕たちだけで騎士団本部に戻ってきた。
今日は訓練もなくこのまま自由行動といわれ解散となった後、僕は一人になりたくて、お昼時で込み合う食堂棟には向かわず、演習場に降りる石段に腰掛けていた。
演習場の向こうに広がる帝都の街並みと地平線まで続く大草原を見ながら考えてしまう。
僕は一体何のために騎士団にいるのだろう。
騎士団にいることの意味が心の中で急速に萎んでいった。
当然、女神様に選ばれた四人で小隊を組む事になるだろう。
その中に入れない僕は当然別々に行動することもあるだろう。
三人が出会って、三人で過ごして、三人で候補生になって。
そこから僕だけが離れて・・・・・・離されて。
これからどうしたらいいのか、どこに向かえばいいのか分からなくなってその場に座り続けていた。
そんなことを考え続け、どれくらい時間がたったのだろう。
頭上にいた太陽がいつの間にか西の空から僕を照らしていた。
その瞬間、ふと後ろから視線を感じて振り向くと、少し離れた場所に立ってこちらを見ているセシルと目があった。
一人でポツンと立っているセシルを見ると、なぜだか無性に彼女の声が聴きたいと思って声を掛ける。
「やぁ、セシル・・・・・・」
僕と目があった瞬間、慌てて立ち去ろうとしたセシルだったが、声を掛けると足を止め、一瞬躊躇した素振りを見せた後にゆっくりと僕の横に来た。
僕が、石段の隣をポンポンと叩くとセシルは恐る恐る腰を下ろした。
「セシル、お互い残念だったね・・・・・・」
「わ、私は、その・・・・・・残念というか・・・・・・今は悲しい、かな」
セシルはヨルマの事が好きなんだと思う。
彼女も僕と同じく好きな人と一緒にいられなくなるかもしれないという不安を抱えているのだろう。
それでも僕はエレナとは恋人同士だけど、セシルとヨルマはどうなのだろう。
付き合ってないのだとしたら彼女の不安は僕より大きいかもしれない。
「僕らはずっと三人一緒だった。この先もずっと三人、いや、セシルも一緒に四人で居られるなんて勝手に思っていたんだ・・・・・・でも、もう一緒にいられなくなるかもしれないと思うと・・・・・・これからどうしたらいいのか分からなくって」
そんな風に呟くと、無理やり作った笑顔をセシルに向けた。
「私はっ!」
すると、なぜか僕と話すときだけオドオドと小さな声でしゃべるセシルが、急に大声をあげたので、僕はその事にちょっとビックリする。
「いっ、一緒にいられないときがあっても・・・・・・自分でできることを頑張るつもり」
セシルは大きな瞳に薄っすらと涙べて僕の方を見てきた。
そんなセシルを見ていると、何故だろう。さっきまでのモヤモヤがスゥーっと消えていく気がする。
「・・・・・・そうだね、僕も何だかすっきりしたよ。セシルのおかげだ。ありがとう」
僕がそう言うと、セシルは軽く頷き、大きな瞳に涙を溜めたまま少し微笑んでからそのまま俯いた。
僕が死んだら二人は悲しむだろう。
二人が、セシルが死んだら・・・・・・僕はどうなってしまうだろう。
だけど、またいつか四人で一緒にいられる日が来るように前を向くしかない。
そう気持ちを切り替えていくしかないじゃないか。
太陽はいつの間にか真っ赤に輝き目の前の風景をオレンジ色に染めていて、そんな夕日に照らされたセシルの瞳にはもう涙はなく、その美しい顔をただまっすぐ前に向けていた。
♢
その後、セシルと一緒に戻る途中で、講義棟から出てくるエレナとヨルマにばったりと出会った。
心配そうな目を僕に向けて来るエレナの瞳を見つめると、聖者となった瞬間に僕を見つめていたエレナの気持ちがわかった気がした。
多分、僕が今日一日掛けて、セシルに教えられて、やっとたどり着いた答えに、彼女はあの数舜でたどり着いていたんだ。
「エレナ、ヨルマ、おめでとう。二人ともこれから大変だと思うけど、僕もしっかり手伝うから」
「フィン・・・・・・ありがとう。一緒に戦えないのは残念だけど、これからも四人で頑張っていこうね」
「フィン、エレナのことは任せてくれ。絶対無事にお前のもとに送り返してやるから。あと俺も一緒にな!」
「私も・・・・・・ヨルマとエレナ、二人の事も応援するから」
三人の思いを聞いて僕も答える。
「うん、これからも四人一緒だ!」
四人が離れ離れになってしまうのはこれが最後じゃないかもしれない。
けれど、四人がそれぞれお互いの事を思っていれば、この先何があっても、例え全員が離れ離れになってしまっても繋がっていける気がした。
♢
勇者誕生の三日後、訓練終了式と実戦部隊の結成式が行われることになった。
僕たち200名の部隊名は”特別戦闘騎士団”。
騎士団長は勇者であるヨルマで、見習い士官であった三等士官補からいきなり三等将官となった。
他の騎士団長と同じ、いわゆる将軍様ってやつだ。
エレナと、聖戦士、賢者の三人は二等上級士官。
各騎士団から副官が一人づつ付くらしい。
この四人が、特別戦闘騎士団 第一中隊 第一小隊に任命された。
そして残った僕らは全員、二等士官に昇級した。
僕は第二中隊 第一小隊の配属となり、セシルは第五中隊 第六小隊に配属され、配属が決まった次の日、小隊を組む仲間と初めての顔合わせと自己紹介を行った。
「うっす!元聖戦士候補のジャック・ボールドウィン、17才だ! しかしあのフィンと同じ小隊とはツいてるぜ」
ジャックと名乗った男は、非常に珍しい黒髪を短くそろえて立てている髪型、ヨルマと背格好は似ている。だけど顔はジャックの勝ちのようだ。
そしてヨルマの倍は騒がしそうだ。
「マルコ・カダローラ、18才です。賢者候補です。」
短い自己紹介をした彼、長く伸ばした茶色の髪の毛を後ろで束ね、細い眼鏡を掛けている。
彼もヒョロヒョロと縦方向にばかり成長したらしい。
鋭利な目に神経質そうな印象を持つが、落ち着いた雰囲気が頼りになりそうだと感じた。
「ニナ・コシンスキー こう見えても聖者候補だったの。年は18だけど、一応秘密ってことで。いやぁ~、あのフィンと一緒とはね~、他の子に嫉妬されちゃうな~ エレナには内緒にしといてあげるから色々とよろしくね!」
そんなふざけた自己紹介をしてきた彼女。
亜麻色のショートカットの髪に切れ長の目、可愛らしい顔立ちに薄っすら化粧をしたピンクの唇が印象的だ。
彼女も背が高い。
「フィン・エルスハイマー 17才。勇者候補でした。これからよろしくお願いします」
最後に僕が自己紹介する。
この四人に騎士団から配属される予定の索敵兵、伝令兵など10名前後の兵士を含めた総勢14名ほどが第一小隊となり、邪竜討伐まで生死を共にする。
そしてすでに何か言い争っているジャックとニナを見ていると、この先が少し心配になった。
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