第23話 新たな決意
自分の過去を淡々と話したセシルを前に僕は言葉が出てこなかった。
ヨルマのことが出てこなかったのが少し気になったけど、セシルの話に嘘があるとは思えない。
彼女のこれまでの人生に比べたら、母さんもいて、貧しいながらも幸せに暮らしてきた僕がセシルに掛ける言葉は見つからない。
「セシル、ゴメンね。嫌な事を喋らせてしまって・・・・・・」
僕がライナスの言葉に嫉妬―――それは多分嫉妬だろう。をしなければ彼女の口から過去を言わせることは無かっただろう。
「ううん、私がフィンに無理やり聞いてもらっただけ。私こそごめんなさい」
そう言って、昔に戻ったように少し寂しそうに笑うセシルを見ると、僕は自分を犠牲にしてもセシルの為に何かをしなければ、したいと思った。
エレナが聖女に選ばれた時も、二人に裏切られた夜も、僕が辛かった時、ダメになりそうな時にはいつもセシルがいてくれた。
目の前の、過去を告白してくれたセシルを見て、今まで輪郭があいまいだったセシルへの気持ちや決意が僕の中ではっきりとした形になる。
僕はセシルを今一番大切に思っていることに。
そしてこれからは何があっても彼女だけは守りたい。
そして、エレナと別れてからは漠然としか考えていなかった邪竜を倒した後の事、もし生きて帰ってこれたら、僕は何をしたいのか。
セシルの為、母さんの為、中隊の皆の為、僕が今信頼する人たちの為に。
そのためには、今までは降りかかる火の粉だけしか払って来なかった事にもちゃんと対峙しなければいけないだろう。
そんな決意をセシルに対して告白しようとしたその瞬間、頭の中で一枚の光景が、言葉がやけに鮮やかに蘇る。
もう思い出すことも無くなり、すでに風化したと思っていた事。
快楽に溺れたエレナの顔とヨルマへの愛の囁き。
「つっ―――」
今の僕の決意はけっして嘘なんかじゃない。
それでもあの光景が頭によぎった瞬間、言葉が出てこなくなってしまい、その決意を口に出してセシルに伝えることが出来なかった。
「ごめんセシル、僕もセシルの為に協力するよ・・・・・・」
結局、そんなありきたりな言葉でその場を逃げてしまった僕は、二日後から始動する二竜戦に向けて意識を切り替えるように、すでに冷めっ切ってしまった料理に手を伸ばした。
♢
後から思えば、この時の僕の決意、間違った決意は口にしなくて良かったのかもしれない。
だけど、後から思えばこの間違った決意で僕がまた一歩、前に進めた事も事実だ。
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