第15話 ある日の戦闘


連続して続いていた爆発音が一旦静まると、眼下に広がる大森林の一部に盛大な煙や炎が上がっていた。

最後に特大の雷魔法が炸裂し、数秒後に鼓膜を圧迫する轟音が届いた。


「ちょうど三分ピッタリだ」


フィン・エルスハイマー率いる第二中隊は駆逐戦として大森林の魔物の掃討を行っている。


今、目の前で起きた盛大な魔法攻撃はカミラちゃん、

第三小隊の賢者候補であるカミラ・セラフィーニ二等士官の攻撃だ。

クリっとした大きなブルーの瞳にベージュの長い髪、身長は低く155センチ程だけど16才にしてはスタイルが良い。

彼女の癖なのか、仲間の僕達や騎士団の兵士にも敬語で話し、いつもニコニコしている。


カミラちゃんは性格の良さ、可愛らしさから皆に”カミラちゃん”と呼ばれ、部隊内での人気も非常に高い。

僕も中隊の作戦会議中に「カミラちゃん」と素で呼んでしまったことがある。

真っ赤になってモジモジしてた彼女には後で平謝りした。


だが、彼女は見た目に似合わず凄い。

魔法を使う者としては間違いなく世界一だろう。


魔法の威力こそ聖なる杖を持っている第一中隊の賢者には及ばないが、まず詠唱速度が非常に早い。

口頭詠唱だけでも普通の賢者候補の3倍近い速度で行い、さらに難しい脳内詠唱も並行して行えるのだ。


脳内詠唱を行えるのは騎士団でも数人しかいないが、並行して魔法を行使できるのは彼女だけだ。

セシルも脳内詠唱を行えるのだが、その間は口頭詠唱が出来ないらしい。

脳内詠唱は口頭詠唱に比べて詠唱速度が非常に早いが、少しでもほかの事に気を取られると魔法は発動しない。

僕も何度も試したが出来なかった。


魔法の飛距離も一番だ。

通常の賢者や聖者は頑張っても半径2キロ程度が限界だが、彼女は最大5キロ先まで魔法を飛ばせる。

さっきの魔法攻撃も彼女一人だけで3キロ先の敵を攻撃してたのだ。


さらに魔素量も尋常じゃなく、第三小隊が哨戒後の帰投中にカミラちゃんの限界を試そうということで、全力魔法行使をしてもらったそうだ。

上級魔法や中級魔法を雨あられのように30分連射しても終わらず、さすがに帰投が遅くなるので中止したらしい。

それでも彼女の魔素には余裕があったそうだ。


魔素量は性欲に比例するなんて噂があったが、カミラちゃんのを見る限りしょせん噂だろう。


そして、戦闘行動中の彼女は怖い。

攻撃開始の合図と共に目が座り、薄っすらと笑みを浮かべたその頬はピンクに染まる。

何かにとりつかれたようにひたすら魔法を連射する姿は、普段の清楚でおっとりとしたカミラちゃんからは想像できない。



「敵、抜けてきます。上空は飛竜2、距離2500、速度60、あと180秒で本隊に接触します」

「地上は・・・・・・超大型二足竜1、大型竜8、中型竜約30、距離3000、本隊に接触するまで約15分」


中隊の優秀な女性索敵兵の報告が入る。


さすがカミラちゃん。三分の攻撃で敵の半分近くを倒してくれた。


「よし、予定通り敵の後方100メートルまで接近後、魔法中止の狼煙を上げろ!その後全員で突撃!本隊が接敵する前に突っ込むぞ!」

僕は全小隊の勇者候補のみで組んだ別動隊を率いて敵に突入すべく走り出した。



魔法攻撃中止の狼煙が上がった。


「チッ!」


私、カミラ・セラフィーニが所属する賢者隊全員が魔法攻撃を中止する。

直後、敵の超大型二足竜の背後に銀の稲妻が走り、その瞬間、その巨大な体が地面に倒れこんでいく。

銀の稲妻は止まらない。

数舜の後には大型四足竜を倒すと、別の大型二足竜に向かって稲妻が走り出している。


私たち賢者隊と聖者隊は聖戦士隊に守られつつ、その光景をすでに観客になって見守っている。

魔法攻撃至福の時間中止の合図でイラついていた私も、銀の稲妻のようなフィン中隊長の戦闘に見入っていた。


スピード、剣捌き、まさに稲妻と呼ぶに相応しい戦いっぷりだ。

魔物の急所を確実に狙い、大型竜でさえ一撃で仕留めていく。


第一小隊の連携も凄い!

あのニナというチャラい年増女は、まるでフィンがどう動くか読んでいるように、必要なタイミングで的確に無駄なく防御魔法を発動している。

フィンも、いつ、どのタイミングで防御魔法が発動するか予めわかっているような動きだ。


多分あの女はフィンの心を読むような盗聴魔法でも使っているに違いない。

盗聴魔だ、ただの犯罪者だ!

そんな便利な魔法、今度コッソリ聞き出すしかない。


そして、犯罪女を守る聖戦士候補の、チャックだったか?・・・・・・

いつも私を死にかけのロバのような目で視姦してくる腐れチ○ポ野郎!

悔しいがあの男の守りもなかなかだ。

普段のチャラすぎる言動からは想像できない、しっかり安定した守りでスキがない。

ロバの守りがあるから犯罪女は何の不安もなくフィンの動きに専念していられるのだろう。


あと誰かいたような気がするが、忘れた。


すでにフィン一人で半分近くの敵を倒している。

そんなフィンの戦闘を鑑賞しながら考えてしまう。


なぜフィンの婚約者だったエレナとかいうアバズレは、勇者の皮を被った、ただの荷物聖剣持ちに乗り換えたのだろう。


100人に聞いても100人が分からないと言うだろう。

見た目も能力も性格も比較するまでもなく間違いなくフィンが上なのに。

何か秘密があるに違いない。

そう思った私はフィンをジィーと、視か・・・・・・観察する。


あの変態的なスピード、変態的な剣捌き、変態的なカッコ良さ。


「あっ!」


分かった!分かってしまった!

あのアバズレが乗り換えた理由が。私はとうとう、当事者しか知らない真実にたどり着いてしまった!


フィンは高尚な趣味異常性癖の持ち主なのだ!

アバズレビ○チ程度では理解できない高尚な趣味異常性癖を!


耐えられなくなったあの女アバズレは何の取り柄もない貧素な荷物聖剣持ちに逃げたのだ!


そうか・・・・・・そういう事か。


だったらこれはチャンスだ!

私ならフィンの高尚な趣味異常性癖がどんなものでも耐えられる自信がある!

耐えられるどころか堪能できるだろう。


ついつい垂れてしまったヨダレを拭きつつ問題を考える。


それは私のほかにフィンの真実異常性癖を知っていそうな、フィンを狙っている売女がいないか、だが。

さっきからフィンに対してキャアキャアと五月蠅い鳴き声を上げているメス豚どもは問題じゃない。


まずは、あの盗聴犯罪者。

奴も見た目だけは良い。見た目だけは私と互角だろう。

だが、あの女は盗聴魔の犯罪者だ。

見た目もチャラい盗聴魔よりも、身も心も清らかな私の勝ちだろう。


後はフィンの友達だという第五中隊のセシルとかいう女。

悔しいが見た目だけは私よりちょっと上だろう、ちょっとだけは。

だが、あの女はフィンの真実異常性癖に耐えられるような感じはしない。

しかし、人は見た目では分からないから要注意だ!


フィンに目を戻すと、すでに中型竜三匹を残して全て倒してしまっている。

私たちの目の前でまた一匹倒すと、周りのメス豚どもが悲鳴に近い黄色い鳴き声を上げる。


フィンのことを”オカズ”程度にしか見ていない、ブヒブヒうるさいメス豚どもの鳴き声を聞いてると、その汚いケツを蹴り上げたくなるのをグッと堪えて、私も声援を送ってみる。


中隊長フィン~、頑張ってくださ~い!」


メス豚共の薄汚い鳴き声と違って、フィンの真実異常性癖を知ってしまった私の声援は確実に彼に届くだろう。



残す敵は中型竜二匹。問題なく行けそうだ。

しかし、残りの敵に向かって走り出した僕は急に悪寒を感じる。


調子も悪くない、体の動きも軽い・・・・・・


敵の腹部に滑り込み、急所を一撃で仕留める。


「残り一匹!」


まただ!また全身を悪寒が走り抜ける。


風邪でも引いてしまったのだろうか?

戦闘中に体調を崩すなんて。

自分の体調管理の甘さを反省する。


明日は体調を完璧に整えて戦闘に挑まないと。


僕はそう考えつつ、最後の敵を仕留めに行く。



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