第26話 作戦会議と二竜戦前夜

休暇が終わって二日後、次の作戦に向けての作戦会議が招集された。

各中隊長と勇者小隊全員、そして各騎士団の副騎士団長以上が出席して、次の作戦である二竜戦へ向けての作戦会議を行う。


こちら側と北の陸を隔てている大山脈には大回廊と呼ばれる幅3キロほどの峡谷が2つあり、それぞれの大回廊は20km程の距離で隣接していて、この峡谷を通ってしか北の陸に向かえない。

舟で渡ろうとしても瓢箪のクビの部分より北側は常に海が荒れていて舟でも渡れず、大山脈を超えようとしても何百メートルもの高さの断崖絶壁が幾重にも連なっているので、北の陸に行くには大回廊を通るしか方法がない。


過去の文献によると、大回廊には緋竜と蒼竜という二竜がいて、それぞれ大回廊に立ちふさがっているらしい。


作戦会議では、全中隊を二部隊に分けて二竜を攻略する作戦に決定し、右の大回廊を勇者が率いる二個中隊で、左の大回廊を残りの三個中隊で攻略する事に決まった。

左を攻略する部隊の名目上の指揮は赤騎士団長に決まったが、実際の戦闘の指揮は赤騎士団長の指名で僕が引き受けることになり、僕が複数の中隊を指揮する事から今作戦のみ特別一等士官となった。


そして部隊分けについての話になった時、勇者の決定で気になる点が二つあった。


一つは聖女を今作戦だけ第二中隊に派遣すること。

勇者曰く、

「目的は戦力の均等化だ、そっちは三個中隊とは言え、聖なる武具を持っている者は一人もいない。せめて聖女だけでもそっちの部隊にいる事で多少ましにはなるだろう。俺達は聖女が居なくても問題ない」


これについては僕はどうでも良かった。

聖女がどれくらいの戦力になるか分からないけど、三個中隊で戦う事を前提で挑めば問題にはならないだろう。

ただ、何故そんなことを言い出したのか分からない。今でも僕が聖女の事を気にしているとでも思っているのか、それとも別の理由があるのか。

勇者から少し離れた位置に座っている聖女を見るが、ぼっーとした顔でただ前を見つめているだけだ。


それよりも問題はその後、勇者率いる第一中隊と行動を共にするのが第五中隊に決定されたことだった。

僕は前回作戦時に第五中隊と行動を共にしたことを理由に、僕たちと同じ部隊にするように提言したが、勇者が特別戦闘騎士団長として第五中隊の配置を決定してしまったのだ。


そして出撃は三日後に決まり、作戦会議は終了した。

ヨルマが何を考えて部隊配置を決めたのか、何か少しでも分かればと思い、会議終了後、作戦室を出ようとしているヨルマを呼び止める。


「ヨルマ、少し話がしたい」

「フィン・・・・・・か、お前が俺に話しかけて来るなんて珍しいな」


僕に声を掛けられて、一瞬驚いた表情を浮かべたヨルマだが、次の瞬間には鋭い目つきで僕を見据えてくる。

周りの皆が僕とヨルマが話をしていることに気づき、遠巻きにこちらの様子を伺っているので、周りに聞こえないように声を落とした。


「ヨルマ、なんで第五中隊を指名した?」

「中隊の中で一番戦闘力が低いと思ってな。お荷物はなるべくこっちで引き取ってやろうと思った俺に感謝するんだな」


第三、第四中隊とは同じ戦場で戦ったことはないが、各中隊の戦闘経過報告書を見ても、各中隊の評判を聞いても、第五中隊が特別劣っているということは無い。

これはヨルマの詭弁だ。


「第五中隊・・・・・・目的はセシルか?」


ヨルマと第五中隊の接点と言えば僕の知る限りセシルだけだ。


「は?何言ってんだ?そういやお前ら最近仲がいいらしいな。エレナを俺に取られたから、今度はセシルを取られないか心配でたまんねーか?」


その瞬間、セシルの名前を口にした時、ヨルマの目に僕に対する敵意が映る。


「まあ、エレナはもう飽きたからお前に返そうと思ってよ。お前の部隊に付けてやったんだから、セシルが居なくてもエレナと仲良くやってろよ!」


ヨルマの僕への敵意は明らかだった。

もう、降りかかる火の粉をやり過ごす時間は終わりにしよう。

これからは僕の為じゃなく、僕を助けてくれた周りの人たちの為にヨルマに立ち向かう言葉を奴に投げつける。


「お前が何を考えているかは分からないが、もし第五中隊、・・・・・・セシルに何かあったら、その時はお前も・・・・・・覚悟しておけ」


「ははっ!勇者である俺を相手にお前が何か出来んのか?」


確かに聖剣の力には僕は勝てないだろう。

だけど―――


「ヨルマ、お前の腕で僕に聖剣を当てられるのなら今すぐやってみるがいい」


僕の挑発でヨルマはもう僕への敵意を隠そうともしない。


「っ・・・・・・調子に乗るなよ!」

「別に調子になんて乗っていないさ。お前の腕じゃ僕に聖剣を掠らせる事も出来ない」

「・・・・・・まあいい。話はそれだけか」

「ああ」


そう言って僕を睨みつけていたヨルマは、背を向けて去っていった。


「ふぅ」


数か月近く前まで親友だった男に敵意を向けて、向けられて、短時間だったとは言え酷く消耗した僕は大きく息を吐くと、遠巻きにこっちを見ていた集団の中に第五中隊長を見つけ、声を掛ける。


「フィン、今の・・・・・・第五中隊がどうこうって、何かあった?」


彼女も僕とヨルマの会話が気になっているのだろう。


「何で第五中隊を指名したか聞こうとしたんだけど分からなかったよ。でも勇者の動きに注意した方がいい。気のせいだと良いんだが、君たちを指名した理由が何かありそうな気がする。特に第六小隊のセシルに何か起こらないか注意してくれないか」

「うん、分かった。注意するわ。セシルの事も任せて。第六小隊長にも伝えておくから」

「ありがとう。それじゃあ十分に気を付けてくれ。お互い頑張ろう」


僕とセシル、そしてヨルマとエレナの関係を知っている彼女は快く了解してくれた。


三日後、特別戦闘騎士団は二つの部隊に分かれて二竜戦に出撃した。

そして出撃前にはセシルに会ってお別れの挨拶をした。


「セシル、何があっても絶対無事に帰ってきて欲しい」

「フィンも・・・・・・あまり無茶しないで無事に帰ってきてね」


そして、セシルにも勇者の動きに注意して欲しい事を伝えて僕たちは別れた。



聖女は自分専用の馬車に青騎士団から連れてきた副官と身の回りの世話をする数名の兵を乗せて移動した。

上級士官は宿所で食事を取れるため、出撃後に聖女と顔を合わせる機会はほとんどなく、聖女がこっちの部隊についてきた理由は結局分からず仕舞いのまま、僕たちの部隊は予定通り攻撃開始日の前日に所定の場所に配置についた。


作戦前に全中隊の小隊長以上での作戦会議が終わった後、聖女様の扱いについてどうするかを第二中隊の各小隊長と協議した結果、取りあえず明日からの作戦で、どのくらい戦力となるかを、少数の敵に当たった際に連携テストをしてみて決める事に決めた。


予想通り明日の戦闘は雨になるだろう。

遅くなった夕食を取ろうと、食堂棟に向かう僕ら第一小隊の頭上には大粒の雨が落ちてきた。

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