第42話 あふれる音の中

「隆二さん。パソコン、買いに行きたいんですけど、どうします?」


 人混みの中を歩くのも、この人がいれば不安になんかならない。


「えっ……人混みだと思うけど、平気かな?」

「ダメならまた、明日にしましょ?」

「そう……だね。じゃあ、電車乗るけど、大丈夫かな?」

「はい、隆二さんのお見舞いに行くために、電子マネーのカード作ったの、持ってますから!」


 ベンチから立ち上がり、今度は隆二さんから私の手を握る。

 ふたりで手を繋いで駅へと向かう。


 ***


 駅構内はいろいろな音であふれている。


 若い子たちの笑い声。

 アナウンスの声。

 仕事の電話をしているのであろう人の声。

 他のホームから電車が走り出す音。

 急ぎ足で駆けていく人の足音。


 白杖をついていない私たちは、周りからどんな風に見えるんだろうか。


 ***


 電車で2駅。いわゆるターミナル駅であろうところで、私たちは電車を降りた。


「ここなら駅前に大きな家電量販店があるから」隆二さんはそう言って歩き出した。

「隆二さん。私、実は、電車に乗ったの、今年が初めてなんです。でも、電車で出かけるのも、楽しいですね」


「初めての電車で、僕のお見舞いに……?」隆二さんは驚いた様子だ。

「えぇ、駅員さんがすごく優しくしてくださって。電車に乗らなかったことを後悔したくらいですよ」隆二さんと一緒にならどこへでも行ける気がする、とは言い出せなかった。


 話しながら歩いていると、ものの数分でお目当ての家電量販店に着いたようだった。確かに、雑踏の音がする。中国語だか韓国語だか、聞いたことのない言葉がたくさん飛び交っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る