愛の在り処を求めて
天照てんてる
第1話 私の名前
私は……名前なんて、ない。親に付けられた名前はあるけど、それは名乗りたくない。だって、あんな親だから。
あんな親。感謝なんかしてない。産んでくれなんて頼んだ覚えはない。生まれなければよかったとしか思えない。
最近の私の趣味は、ツイキャス。盲目の私は、声フェチという建前で、あちこちの枠に行く。
***
ど・こ・に・し・よ・う・か・な。
私は、適当にスマートフォンの画面をスワイプし、適当な枠を開く。
と――聞こえてきたのは、私の好み、どころではない。この声を聴くためだけに今までの人生を過ごしてきたと言っても過言ではない声だった。
喋り方が優しい。この人となら話せるかもしれない。そう思い、私は思い切って「初見です」とコメントを打った。
「初見さん、珍しいな。どうもありがとう。どこから来ましたか?」
――言えない。適当にスクロールしただなんて。
「わかりません、迷い込みました。お邪魔でしょうか?」
「邪魔なわけないでしょう?
よかったらサポートして、ゆっくりしていってくださいね~。
で、名無しって書いてあるけど、なんて呼べばいいですか?」
私の打ち慣れない、しかも不可解なコメントに丁寧に返事をしてくれる。――どうして?
早速私はサポートのボタンを押した。
「サポートしました。
名前……呼び方、決めてもらえますか?」
「えっ。困ったな、そういう枠じゃないんだけど。
でも、リスナーさんの要望にはできるだけ答えたいからね。
そうだなあ、その花のアイコンがすごく可愛いから、花ちゃんでどうかな?」
「花ですね、ありがとうございます。名前、変えてきた方がいいですか?」
「次からでもいいし、次も変えなくてもいいし。花ちゃんの思うようにすればいいよ」
そのまま、いろいろなひとのコメントの読み上げが溢れる、とてもうるさい、とても優しいセカイでしばらく過ごした。
延長のコインを投げるひともたくさんいて、私も初めてコインを投げて、たくさんたくさん延長してもらった。
もうすぐ配信開始から4時間が経とうとしている。ツイキャスでは、4時間で延長のコインが余っていても配信は切れてしまう。俗に、完走と言われている。
「初見の花ちゃんも来てくれての久しぶりの完走、楽しかったです!
じゃあみなさま、身体にはお気を付けて!
おやすみなさいませ!」
彼がそう言って枠は終わった。
***
『花ちゃん』――私の、新しい、名前。
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