第31話 手の届く範囲
私は文字だけであの状況を説明できる自信がなかったため、すぐに隆二さんのところへ向かった。
駅。電車。バス。
二度目なのだから、大したことはない。電子マネーのカードも、持っている。何の介助も受けず、前回歩いた道を、白杖でそのまま辿る。
コツ。
「ん?」白杖の先に何かが当たる。
コツ、コツ。
「なんだろう……?」どうやら私の正面に何か硬い物体があるようではある、のだが……?
「すみません、”花ちゃん”ですよね!? 配信観てました! そこ、改札機ですよ。お手伝いしましょうか?」元気そうな女の人の声。
「え、あ、あ、あり、ありがとうございます。お願いします」私は甘えることにした。
私が”花ちゃん”だからという理由で助けてくれたのだとしたら、正直、あまり気持ちのいいものではないな、と思った。言わずに済ませようかとも思ったのだが、私は極力不機嫌そうに聞こえない声を出して、言った。
「お姉さん? お嬢さん? どちらだかわかりませんけど、他の白杖の方にも同じように接することはできるんでしょうか? 私だけを特別扱いするのであれば、私のことも他の白杖の方と同じように放置していただけた方がありがたいのですが」
言いすぎた、と私は思った。だが、相手の返答は、想像の中にないようなものだった。
「善意のつもりだったのですが、こういうのを偽善と言うんですね、きっと。私の至らない部分に気付かせてくださって本当にありがとうございます。今後は白杖やヘルプマークの方、それ以外にもいろいろな困っている方に積極的に声をかけます。ご迷惑おかけしました」泣きそうな声をしている。泣いているのかもしれない。
「いえ、わかっていただければそれだけでいいんです。ご無理なさらず、ご自分のできる範囲で、手の届く範囲に手を差し伸べることだけしていただければと……」
手の届く範囲に手を差し伸べる。
私の手の届く範囲は、一体どこまでだろうか?
***
病室に着くと、隆二さんは、あの配信の閲覧が300人を超えていたことを教えてくれた。私は本当に驚いた。隆二さんも、コメントの挙手の数に驚いたと笑っていた。
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