第30話 延びる入院

網谷 隆二『入院期間が数日間延びることになった。レシピエント登録がこの病院でできるらしいんだ。体調が戻り次第登録させてもらうから、いつ退院になるかはわからないけど、心配することはないからね?』


 目を覚ました私がメッセージは、驚きで始まり、喜びを通り過ぎ、寂しさで終わった。


菅谷 ひかり『わかりました。隆二さんも、頑張りましたね!』

網谷 隆二『まぁ、まだ検査もしていないけど……』

菅谷 ひかり『隆二さんが退院したら、一緒にパソコン買いに行きたいんです。選んでもらえますか?』

網谷 隆二『もちろん、喜んで!』


 スマートフォンの他にタブレットまで持ち歩いているような人になら、頼んで安心だろう。私はひとつ、悩みごとが減った。


菅谷 ひかり『それで、今朝の配信はどうすれば……?』

網谷 隆二『ひかりちゃんが話したいことを話せばいいよ、今来てくれているリスナーさんは、ひかりちゃん目当てだろうから』


 隆二さんのスマートフォンで配信中にはの枠の閲覧数を見ることができない私には、なかなか悩ましいお願いではあった。とはいえ――


菅谷 ひかり『わかりました! 今日はドナーカードの話にしますね!』


 隆二さんの病気には触れないように、ドナーカードやアイバンク、骨髄バンクなどの話をする。幸いにして私が盲人なことはもう話してあるのだ、こういった話をしても隆二さんの身に起きていることに気付かれるわけがない。気付かせるような喋り方を、私がするはずがない。そう思っていた。


 配信を始めてすぐに昨日と同じような挨拶をしてみたが、コメントの読み上げがほとんど聞こえない。音量ボタンでも誤操作したのだろうか、と思い、「すみません、聞こえてらっしゃる方、挙手していただけますか?」と言った。


 すると、何十、いや、百、いや、何百という数の「ノ」が読み上げられ、何も話せないまま配信終了してしまっていた。

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