第29話 私の本音
ふと目を覚ました私は、朝の配信でうっかり映り込まないように背中に隠していたはずの白杖を何故見せてしまったのだろうか、とまた悩み始めた。
私はあんなことを言うつもりじゃなかった。
隆二さんはタブレットで配信を見てどんな気持ちになったのだろうか?
最初からああいう配信にするつもりだったという嘘をつくべきなのだろうか?
悩んだ末、自分のスマートフォンで隆二さんにLINEを送信する。
「今朝はごめんなさい。ご迷惑な放送でしたよね?」
枕元あたりで、聞き慣れない音が鳴る。二度鳴ったような気がする。そうだ、隆二さんのスマートフォンはここにあるんじゃないか。私は何をバカなことをしているんだろう。
時刻を確かめることすらせず、再度布団に潜り込むのとほぼ同時、私のスマートフォンがLINEのメッセージ受信音を響かせた。
ああ、きっとアップルパイの焼き上がり時刻の連絡だ、そう思った私は、何の気なしにスマートフォンを操作し、LINEを開き、未読の数字が見えるトークルームを開く。
ツールが読み上げるトークルームは、隆二さんとの個人LINEの内容だった。不思議に思いながら聞いていると、見た覚えのない新着メッセージが読み上げられる。
網谷 隆二『母親に頼んでノートPCを持ってきてもらったよ。LINEができないんじゃ、不便だから。自枠にコメントはしづらいしね』
そうだ、そういえば、お見舞いに行けなかったんだった。
菅谷 ひかり『じゃあ、いま届かなかったと思ったLINEは……』
網谷 隆二『読んだよ。朝の配信も見た。よく頑張ったね』
菅谷 ひかり『違うんです、背中に隠そうとして後ろ手で持っていたんです。隠し通そうとして、苦手な笑顔まで作って。でも、何故か急に”話さなきゃいけない”って気がして、つい』
網谷 隆二『それならなおさら、よく頑張ったね』
何がなおさらなのかが理解できず、既に夕飯の時刻も過ぎていることに気付いてしまった私はそこで既読スルーの状態にしたまま食事を摂って、シャワーを浴びて、寝る準備をすることにした。
頭を洗うとき、『何かが足りない』、そんな気持ちになった。
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