第32話 『ひかり』と『花』

 私はそれから隆二さんの退院の日まで朝の配信を続け、いろいろなことを話した。


 駅でリスナーさんに助けられたこと。

 そのおかげもあって、ほぼ誰の助けも借りずに一人で電車に乗れるようになったこと。

 バスの運転手さんにお願いして、病院まで行くのにも介助が要らなくなったこと。

 のお見舞いに毎日行っていること。


 盲人だと明かした私を気遣うリスナーさんたちは、コメントの量をかなり減らしているようだった。おそらくもうこの枠は大手と呼ばれる部類のはずだ。それでもコメントが静かでいてくれる、とても優しい枠だ。


 の枠を乗っ取ってしまっているのは、やはり忍びないと思った。


 思い切って自分で配信をすることを決意した私は、のお見舞いへ行き、自分で配信をしてみたいので、ビデオ配信をする方法を教えてほしい、とお願いした。


「ひかりちゃ……いや、。僕は、花ちゃんの最初のサポーターになりたい。だから、いま、サポートしてもいいかな?」隆二さんがとても気遣ってくれているのがわかる。

「もちろんです! 通知出しますから、見に来てください!」私は私なりの笑顔で答えた。


 ***


 自宅に帰って、『花ちゃんねる』と名付けた枠で配信をスタートすることにした。配信開始通知メッセージは『盲人のとりとめもない話』だ。いろいろな人が来てくれるよう、思い付く限り、自分や他の障害者などに関する言葉をタグ付けしておいた。


 プロフィールには、こう書いておいた。


『私は目が見えません。コメントは読み上げがありますが、あまりたくさん来ると聞き取れません。初見さん以外の挨拶は、「ノ」だけでお願いします。』


 ***


 配信をスタートする。ちゃんと映っているのだろうか? 不安になりながら、話そうとする。だが、なかなか言葉が出ない。すると、読み上げの音が聞こえた。


『アンブレラさん:花ちゃんおつかれさま、さっそく見に来たよ』


 だ! 隆二さんだ!


「りゅ、じゃない、えっと、アンブレラさん、ありがとうございます!」危うく彼の個人情報を喋ってしまうところだった、と私は少し焦った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る