第15話 再会
「さてと、母さんは夕飯の買い物して帰るけど、ひかりちゃん、どうする?」
私は、財布と折りたたみ式の白杖をちゃんと持って来ていることだけを確認し、答えた。
「そうだなぁ、点字メニューゆっくり読んで行きたいから、先に帰ってもらってていい?」
「わかったわ。じゃあ、夕飯ができる頃には帰ってきなさいよ?」
自動ドアが開く音がして、母親が出ていく足音がする。と同時に、男性らしき人が入ってくる足音がする。
――アミタニさんだったら、いいのにな。そう思った瞬間、マスターは言った。
「アミタニちゃん、今朝LINEで15時に焼き上がるって言ったのに、遅刻」
「わかってるよ。透析帰りなんだ、仕方ないだろ」
すごく疲れ切った声のアミタニさんは、”透析帰り”、そう言っている。
透析? 人工透析? 腎臓が悪いの? だから、私にも優しくしてくれるの?
アミタニさんは私の存在に気づいたらしく、私に向けて話しかけてくる。
「あ……ひかりちゃん。聞かれちゃったね、内緒にしておきたかったんだけど。キミはきっと耳がよく聞こえるだろうから、聞こえちゃったよね」
私は、返す言葉を見つけられなかった。うつむいて、泣いてしまった。
***
アミタニさんが私の目の前の席に座り、「いつもの」と注文する。
私も釣られて「じゃあ、コーヒーもう一杯」と注文する。
マスターは「カフェ・マキアートだね?」と笑う。
私もアミタニさんも、無言で座っている。どちらからも言葉を発せずにいる。私は何を言えばいいのだろう……と悩んでいるところに、マスターの足音と、アップルパイとカフェ・マキアートの香りが近付いてきた。
「お待たせしました。アップルパイひとつとカフェ・マキアートふたつになります。……私は口を挟まないつもりだから、ごゆっくりどうぞ」
マスターの気遣いが、今の私には、逆に、苦しい。
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