第3話 さまよう私

 母親は、早速空色のトレーナーを買ってきてくれた。


「ひかりちゃん、どうしたの。珍しく色のおねだりだなんて」


――だから母親と会話をしたくなかったのだ。光のないセカイに住む私に付けられた皮肉な名前を呼ばれるのが苦痛だったから。けれど、私はさすがに無言でいるわけにもいかないと思い、かすれるような声で「好きな人ができたの」と言った。


「引きこもりのあなたが一体どこで!?」母親は驚いた。

「ネットだよ。お母さんが買ってくれたスマートフォン。動画配信サイトで」適当な枠の配信を見せる。

「でもひかりちゃん、あなた、その……」母親は明らかに言葉を選ぼうとしている様子だった。

「目のことなら、言ってない」


 私は、そのまま布団に潜り込んだ。母親はそれ以上何を尋ねるでもなく、「右端のハンガーにかけておくから」とだけ言って、部屋を出ていった。


 起き上がって服を着替えた私は、たまには出かけよう――そう思って、しばらく使っていない白杖を探した。


 ***


 駅前までの道すら、もう覚えていなかった。

 また覚え直しだな、と思いながら、町内にある2年前まで通っていた盲学校まで行った。


 学校の中に入る勇気が出ずに膝を震わせている私は、周りから一体どんな目で見られているのだろう。それを知ることができないのは、きっといいことに違いない……。


 そのまま私は記憶を頼りにケーキ屋さんに行き、モンブランをひとつ買って帰った。

 外は、マフラーが欲しくなるほどの気温だった。

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