第19話 震える声・震える手
目覚ましの音で目を覚ます6時45分。私はスマートフォンを握りしめ、ツイキャスビューワーを開き、彼の配信が始まる前から枠に上がってコメントを用意して待機する。
7時ちょうど、また彼の配信が始まった。私は即座にコメントを送信した。
「おはようございます。アイコン、昨日花屋さんで偶然見かけた早咲きのクリスマスローズに変えました。白くて可愛いでしょう?」彼はどんな反応を見せるだろうか?
「お、おはよう花ちゃん。可愛い……うん、可愛い白い花だね。クリスマスローズっていう花なんだ?」やはり、なんとなく動揺が伺える。
とはいえ、配信開始前から長文コメントを用意していたのだ。そちらに驚いたという可能性もないわけではない。
彼の話を聞きながら、私はまたあらかじめ用意しておいたコメントを送信する。
「前に言ったアップルパイの美味しいお店、昨日行ったんです。焼き上がり時刻を教えてもらえるグループLINEに招待されちゃって、このあと9時になったらLINEが来るんですよ」私にしては随分と思い切ったコメントを打ったものだな、と思いながら、彼の反応を待つ。
「そうなんだ。僕の知ってる喫茶店も、焼き上がり時刻をLINEで教えてくれるよ。同じ店かもしれないね」彼の声が、いつもより少し震えていることに私は気付く。
――間違いない。彼と網谷さんは、同一人物だ。会社に行くなんて、嘘なんだ。透析のために病院に行くんだ。孤独だから配信を続けているんだ。
どうしよう。私は、最初から盲人であることを明かすべきだったと後悔した。が、いくら悔やんでももうどうにもならない。きっと、網谷さんにも嫌われてしまうに違いない……。
***
配信が終わった7時半、私はグループLINEから網谷さんのアイコンをタップし、会話ボタンをタップ、そして悩みに悩んで文字を打つ。文字を打つ手が震えて、うまく打てない。やっとの思いで文章を作れたが、送信ボタンが押せない。
「網谷さん。ツイキャスで私に『花ちゃん』と名付けてくれたのは、あなたですか?」
9時になる少し前、私は思い切って送信ボタンを押した。
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