第10話 雨の日の散策

 母親と一緒に、翌朝7時からの配信を約束をした。


 ***


 朝。母親は何年かぶりに私を起こしに来た。枕元の時計のスイッチを押すと、『午前6時32分デス』という音声が流れる。


「お母さん、早すぎるよ……」母親としては心配なのかもしれないが、生放送だということをちゃんと理解してくれているのかどうか不安になり、私は続けた。


「あの人は、毎朝きっちり7時ちょうどから配信するの。だから、今見てもわからないんだよ」

「自分の娘の好きな人のことだから、母さん緊張しちゃって眠れなかったのよ」


 普段彼がどういう話をしているか、また、私は彼に『花ちゃん』と呼ばれていることを話し、母親に自分のスマートフォンや家のパソコンで勝手に配信を見ないようにしてほしいことを念押ししているうちに、通知の音が聞こえた。


「あっお母さん、始まるよ!」私は慌ててビューワーを開いた。


 いつも通りの無難な話。今日の関東地方は雨予報だと聞いた。私はアミタニさんが買ってくれた花柄の傘を使うチャンスだと思い、今日はあの喫茶店を探して行ってみようと思った。


 ***


 配信が終わり、母親に言う。


「ねえお母さん。盲学校から10分くらいのところ、渋い声のマスターがひとりでやってる喫茶店、知らない?」想い出がかすれてしまわないうちに、焼き付けておきたかった。

「知ってるわよ。ラムールでしょ?」そういえば、店の名前を聞いていなかった。

「わからないの。前に、親切な人が雨の中連れて行ってくれて」アミタニさん、また会いたいな。

「スイーツの美味しいお店よ」きっとそうだ。


「じゃあ、私、今日そこに行ってコーヒー飲んでくるね!」

「雨なのに?」

「雨だからだよ。この前の花柄の傘、見たでしょ? あれ、使いたいの」

「今度は風邪ひいたりしないように気を付けるのよ。母さん、服用意してあげるから」


 ***


「白いTシャツに紺のトレーナー、白いカーディガンとマフラー、コートはベージュよ」母親は言った。

「ありがとう。じゃ、いってきます!」


 また、アミタニさんに会えない、かな。

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