第9話 紅茶とケーキ

 数日後、風邪がすっかりよくなった私は、ケーキ屋さんに行くことにした。

 前に行ったときは、モンブランをひとつだけ買って帰って部屋でひとりで食べたが、今日はなんとなく母親に感謝の気持ちを伝えたいと思ったのだ。


「今日は何がありますか?」ショーケースの前で、私は訊いた。

「お好きなケーキを言ってくだされば、あるかどうかお答えしますよ」店員さんは答えた。


――そういえば、母親の好きなケーキは何だろう?


 無難に、チョコクリームケーキとイチゴのショートケーキをひとつずつ買って帰ることにした。


 ***


「ただいま。お母さん、お土産。ケーキだよ。一緒に食べよ」私はつとめて明るい声で、言った。

「あら、じゃあ母さんコーヒーか紅茶、淹れるわよ。どっちにする?」


 コーヒー。またあの喫茶店に行きたいな、と思った。あの味を忘れたくないので、紅茶を淹れてもらうことにした。


 母とケーキを食べながら、最近のことを話す。といっても、どこまでなら行けるようになった、といったような報告程度だが。


 ふと、母が唐突に話題を変えた。


「ひかりちゃん。あなたの好きな人って、どんな人なの?」


――どんな人? そんなの、私が知りたいくらいだ。ひとまず私は提案した。


「お母さん、私が見てる動画配信サイト、一緒に見てみる?」

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