第8話 私を起こす声
スピーカーに繋いだままのスマートフォンを充電しながら、彼の配信をBGMに寝てしまった私は、彼の声で目を覚ました。何が起きているのかと焦ったが、どうやら開きっぱなしだったビューワーが彼の朝の配信をそのまま再生し始めたようだった。
「おはようございます。寝落ちしたままの人が3人いますね」彼は笑った。
寝ぼけながらコメントを打とうとするが、指先が滑ってうまくいかない。意味不明な文字列を打ち込んでしまったようで、彼は言う。
「花ちゃん、寝ぼけてるのかな? まだゆっくり寝てないと」
私はコメントを打たず、そのまま寝ることにした。『私が彼の声を聞いている』それさえ彼に伝わっていさえすれば、それだけでいいと思った。
***
うとうとする。彼の声で起きる。寝たり、起きたり。その繰り返し。
「配信始めるたびに1人だけずっといるんだけど、花ちゃんなのかな?」と彼は言った。
「ノ」コメントしないのは悪いと思ったので、ぼんやりとした頭で、とりあえず挙手だけしてみた。
「花ちゃん、コメントありがとう。ゆっくりおやすみ」彼の素敵な声を聞きながら、また眠りについた。
――こうやって毎朝、起こしてもらおうかな。私は、あまりいいとは言えない使い方を思いついてしまった。それに、彼だって心配するだろう。ブロックされてしまう可能性もある。思いついた考えを、すぐに消し去った。
***
私が好きなのは、キャス主の彼なのだろうか。それともアミタニさんなのだろうか。そんなことを考えながら、一日中寝たり聴いたりを繰り返していた。
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