第27話 ヘアドネーション

 ドナー登録をしようとした私は、家に着いてから軽く調べ物をすることにした。


 生体腎移植をするには、親族・配偶者であることが必要条件のようだ。盲人の私でも大丈夫なのかどうかは、ガイドラインのPDFを読んでもわからない。というより、おそらくダメだと言われているような気がする。


――さすがに隆二さんのため以外に臓器を差し出す気にはなれない。ドナー登録のことは諦めることにした。


 となると、私にできるのは、せいぜい献血くらいか、と考えていたとき、スマートフォンの画面を誤操作してしまい、なんだかよくわからないウェブサイトを開いてしまっていた。


 何かの縁だ、読んでみよう、と私は思った。

 読み上げツールを使い、タイトル部分から読み上げさせる。


『「15cmカットした髪の毛を寄付しました」ヘアドネーションで子どもたちにウィッグを提供する「つな髪」』


 髪の毛の――寄付?

 そういえば、私はここ数年美容院に行くのも怖かったので、髪は伸び放題だ。何センチあるかもわからない。ヘアドネーション対応のサロンで15センチまたは31センチのカットで寄付できる、というようなことが書いてあった。


「お母さん。私、髪の毛何センチあるかな?」こんなことを訊くのは初めてだ。

「そうねぇ……5~60センチぐらいはあるんじゃない? ひかりちゃん、そろそろ切りに行けば? 最近オシャレしてるんだし」母親は声を弾ませて答えてくれる。

「あのね、お母さん。ヘアドネーションって、知ってる? 寄付できるんだって。ウィッグ用の髪の毛」大して知りもしないことを、知った風に言ってしまった気がした。

「ひかりちゃんの髪はとっても黒くてツヤツヤだから、寄付された人はきっと喜ぶわよ」母親は嘘などついていない、私はそれを確信できた。


 ウェブサイトのフォームから、サロンの予約をするようだ。が、検索してみると最寄駅のすぐそばに、ドネーションカット対応のヘアサロンがあった。私は思い切って電話をかけて、「どうしても今日お願いしたいんです」と、かなり強引に予約を入れて、そのままヘアサロンへと向かった。

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