第57話 光の色
母親が夕飯の支度をする。私は手伝おうとするが、塩と砂糖がどちらなのかすらわからず、今までいかに両親に頼って生きてきたのかを思い知らされるだけだった。
***
「りゅーじ、私ほとんど手伝ってないけど、これ、食べて」私はそう言って、冷蔵庫から出して皿に盛り付けただけの卵豆腐を彼に渡した。
「ひかり……無理しなくていいんだよ。もし一緒に暮らすなら、この家で暮らすんだから、今まで通りご両親を、いや、ご両親と僕を頼ればいいんだ」
一緒に暮らすという話が出るとなると、ますますしばらく会えなかった理由がわからないな、と思っていると父親が口を開いた。
「ひかり。隆二くんから聞いてないかな? 憧れているアプリ制作会社があるっていう話」そういえば、そんな話をしたような……。
「それがね、父さんがもうひとつ買った小さなマンションの一室で起業した会社だったんだよ。父さんがひかりに遺してやれるモノは財産だけだと思っていたんだ。だけどね、スマートフォン全盛期のいま、父さんにはまだできることがあったんだ」
父さんが何を言っているのか、まるで事情が飲み込めない。そこに彼がフォローを入れる。
「ひかり、前に花見をしたことがあるでしょう?
あのとき使ったアプリの開発者は――キミのお父さんなんだよ。
生まれつき光を持たないキミに光を与えるために、キミのお父さんは昼間は研究所で研究に励んで、夜は自分の会社でアプリの開発をしていた……んですよね? 草太さん?」
ろくすっぽ家に帰って来もせず、週末になれば飲み歩いているだけの父さんが、まさか、そんな……。
「最初は大したモノは作れなかったよ。
せいぜい、色覚少数派のために色をRGBで識別する程度のアプリだね。
見やすい色にカスタマイズする機能を付けたり」
「でも、それでひかり……いや、ひかりさんは色を知りました。それまではひかりさんのセカイには、色なんて存在しなかったはずですから」
***
父親と彼は飲んで食べて喋って、結局私が先に眠ってしまったのだった。
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