第47話 母親の愛情

網谷 隆二『24日の件だけど……やっぱり無理かな?』


 返事をするまで、あと3日もない。私は昨夜の隆二さんの配信を見なかったほど悩んでいた。12月24日は、母親の誕生日なのだ。


菅谷 ひかり『母親の誕生日なんです。相談はしてみます』


 ようやく送信ボタンが押せた。私はということに関して気が重すぎて、押せずにいたのだ。


「母さん、話があるんだけど」私は食卓で母親の背中に向かって話しかけた。

「誕生日なら、心配ないわよ。お父さんと二人っきりの夜でもプレゼントしてくれると、お母さん、嬉しいんだけど」後ろを向いたままキャベツを刻む母親が言う。

「えっと……どうして?」どうしてだとわかったんだろう?


「ひかりちゃんに怒られると思って言わなかったんだけどね。アンブレラさんの枠のリスナーさんで、さくらさんっていたでしょ?

 あれね、実は……お母さんなのよ」


――なんだか色々質問するひとだなぁと思ってはいたが、まさか母親だったなんて。


「昨夜の配信、花ちゃんが来ないって嘆いてたのよ。で、どうかしたんですか? って。

 そうしたら、告白もしてないのにいきなり自宅に泊まりに誘うなんて失礼なことしちゃったかなあと思って、って言ってたわ。

 本当にステキな人ね、ひかりちゃん、見る目あるわよ」


――そんなことを配信されてしまうのも、困りものではある、のだが。


「母さん。私、に告白してくる。ちょうどいま配信中だよ!」


 ***


「あぁもう、本当に僕はどうしたらいいんだろう?」彼の声が聞こえる。

「昨夜は来られなくてごめんなさい」私は音声入力でコメントを書く。

「ひかりちゃん!

 あっ、本名言っちゃった、ごめん!」

「いいですよ。

 それより、私、改めて告白しに来たんです」

「は?」彼は困っている様子だ。

「プライベート配信で言われたじゃないですか、はプロポーズじゃないのか、って。だから、プロポーズしに来ました」恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。

「えっと……じゃあどうしよう……コラボ枠にするから、上がる?」

「お願いします」


 彼は一旦配信をストップして、コラボ・ペアに設定して、配信を再度始める。

 私はコラボ申請をして、開始されたのを確認して、すぐさま言った。


「本名言わせてもらいますね。

 網谷さん。

 あなたの残りの時間を、全部私にください!」

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