第21話 約束
「ごめん……僕はきっとひかりちゃんより先に死んでしまうから、ひかりちゃんに哀しい想いをさせてしまうから、だから……付き合えない」
網谷さんの答えは予想外のものだった。せいぜい『考えさせてくれ』程度だと思っていた。私は、更に思い切って、言った。
「網谷さん。それなら、網谷さんの残りの時間を、全部私にください!」
「ひかりちゃん……本当に、いいのかい?」
「もちろんです! でも、レシピエント登録だけは、絶対にしてくださいね!」
「わかったよ、じゃああとはLINEで」と、彼はプライベート配信を終えた。
***
私の嘘。網谷さんの嘘。複雑に絡み合った糸。
誰かこの糸をほぐしてくれる人はいないだろうか。
私は、一人だけ心当たりがあることに気付いた。
***
未読スルーしていたアップルパイの焼き上がり時刻のメッセージから、マスターのアイコンをタップして、会話ボタンをタップ。マスターとの個人LINEの画面で、震える指で、文章を書き上げる。
菅谷 ひかり『マスター。私、網谷さんとお付き合いすることになりました。でも、網谷さんの方はあまり乗り気じゃないみたいで……自分の方が先に死ぬだろうから、って』
喫茶ラムール『ひかりちゃん、おめでとう♡クリスマスは、うちでパーティ開いてあげるよ。お金の心配はしなくていいから、遠慮なくいらっしゃい。網谷ちゃんにも言っておくから、安心してd(^-^)b』
菅谷 ひかり『え、そこまでしてもらうわけには……』
喫茶ラムール『いいからいいから。網谷ちゃんは、私が亡くした妻の弟だから、大事にしたい人なんだ(^_-)-☆』
菅谷 ひかり『えっ……あの……はい、わかりました……』
マスターの返信の意味を理解するには、数時間を要した。そこへ、網谷さんからLINEが届いた。
網谷 隆二『昼間はごめん。改めて、僕なんかでよければ、是非お付き合いさせてください』
菅谷 ひかり『ありがとうございます! これからは、いえ、これからもよろしくお願いします!』
網谷 隆二『ラムールのマスターが馴れ初めを聞きたいって言ってたから、明日アップルパイが焼き上がる時刻に、ラムールで待ち合わせしよう。明日は透析がないんだ』
菅谷 ひかり『わかりました! 楽しみにしてます!』
その日私は初めて味わう感覚を胸に抱いて、眠りについた。
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