第20話 告白

 9時ちょうど。マスターから、アップルパイの焼き上がり時刻がLINEで届く。私は未読スルーして、網谷さんからの返信を待つ。


 腕時計を触る。短針は9を少し過ぎて、長針は3を少し過ぎている。9時17分といったところか。枕元の時計のボタンを押す。「午前9時16分デス」無機質な音声が流れる。


 いつまでもスマートフォンを握りしめている私の元へ網谷さんからのLINEが届いたのは、15時を迎えようとしていた頃だった。


「ひかりちゃん。プライベート配信で話したい。合言葉を『ラムール』に設定したから、僕の枠に来てもらえるかな?」


 LINE通話ではなく、プライベート配信なのか。録画を残すためだろうか? それとも、私が文字で反応する方が、網谷さんにとって気楽なのだろうか?


「わかりました。すぐ行きます」と返信して、すぐにのプライベート配信枠に行った。


 ***


「来ました」と私はコメントを打った。

「ひかりちゃん。いや……花ちゃん。来てくれてありがとう。まさか、こんな身近にリスナーさんがいるなんて思わなくて、本当にびっくりしたよ」


 どうコメントしていいのかわからず、私はただの声を聞く。


「そのうえ、先天性の全盲だなんて……ネットにはそういう人が多くいることも知っていたつもりだったけど、まさか見えるふりまでできるなんてね……ラムールでLINEのアイコンを見た時は、本当に心臓が飛び出すかと思った」


 私は、悩みながらコメントを打っていた。


「騙してごめんなさい。隠してて、ごめんなさい。でも、私の目が見えないことをコメントに書いたら、他のリスナーさんの気分を害するかもしれないと思ったんです。悪気はなかったんです」

「悪気がないことくらい、わかってるよ。それで、この配信だけど、録画を残してもいいかな? 僕はずっと花ちゃんのことを、ひかりちゃんのことを、忘れたくないんだ」


――私は網谷さんに嫌われたと思っていた。だが、網谷さんは、私に嫌われると思っている――?


「網谷さん。思い切って直接言わせてほしいので、コラボに上がっていいですか?」

「いいよ」と彼は言った。


 コラボ申請を承認してもらい、改めて自己紹介をしあって、それから私は言った。


「網谷さん。私、ここの枠主のあなたと、私を助けてくれた網谷さんのことが好きなんです。付き合ってもらえませんか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る