第54話 朝食

 今すぐに返事はできないって、どういう意味……?

 と私が悩んでいると、また彼が話し始めた。


「お父様……とは呼びたくありません。

 私の名刺を渡しますので、改めて”一人の社会人”として、後日面接していただけますか?」彼が聞いたことのない声を出している。

「あぁ、すまない。私は菅谷草太、名刺は切らしているが……」

「へ!?」


 彼の驚く声が聞こえたが、その後は何を話しているのかよくわからなかった。私は母親に連れられて食卓へ行き、温め直したシチューを食べて待つことにした。


 父親と彼はずいぶんと長話をしているようだった。いつになっても彼は食卓には来ない。いつから待っているんだろうか……もう忘れてしまった。


 ***


 先に自室へ戻ることにして、彼を待つ……が、気付けば朝を迎えていた。隣に、彼の匂い。


「りゅーじ、おはよ」あくびをしながら私は言った。

「あ、ああ、ごめんね昨夜は随分待たせちゃったみたいで。ぐっすり眠っているのを起こすのも悪いと思って、隣で寝かせてもらったよ」いつもの声より、少し緊張している様子だ。


 ***


 部屋の扉を開けると、廊下から焼鮭の匂い、味噌汁の匂い、お米の炊ける匂いが漂ってくる。


「お母さん、おはよ」自分の席に座りながら、言った。

「ひかりちゃん、隆二さん、おはよう」

「隆二くんはそこに座って」

「どうも、ご相伴に預かります」緊張は父親との長話のせいだろうか……。


 ***


「じゃあ、洗い物は僕が」彼がさっと立ち、手際よく洗い物を済ませる音を鳴らす。結婚……してもいいかもしれないな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る