第49話 花の名前
24日の昼間。
私たちは、またあの公園で待ち合わせすることになっていた。
「困ったな……」私は待ち合わせ直前に、道を間違えていることに気付いて、ひとり呟いた。
「あの、すみません、何かお困りでしょうか?」優しそうな女性の声がする。
どこかで聞いた声だった気がする。
「あっ……もしかして、アンブレラさんのリスナーさんでしょうか?」私は訊いた。
「そ、そうです。”花ちゃんだから”ではなく、一人の人間として扱いたくて、敢えて普通に話しかけたつもりだったんですけど……」
「あのときはすみませんでした、私も言いすぎました」ぺこり、とお辞儀をする。
「いえ、私の方が全く考えが及び至っていなかったというか……」
***
話し込んでいて、遅くなってしまった。私は、「春になると桜が綺麗な公園」という情報だけで、隆二さんが待っている公園へと辿り着くことができた。
彼の匂いがする。
「りゅーじさんっ!」勢い良く声をかける私。
「ひ、ひかりちゃん? どうしてわかったの?」驚く彼。
「だから、匂いでわかるんですって」笑い出す私。
「すごい、ラブラブじゃないですか」きっと微笑んでいる、名乗りもしないリスナーさん。
「りゅーじさん、このひと、アンブレラさんのリスナーさんらしいです」彼女を紹介しようとする。
「あの、私、特別扱いはされたくないので、名乗れません。ここで失礼します」彼女はそそくさと立ち去ってしまう。
***
ベンチに腰掛けて、ぽかぽかと暖かい陽射しを受けながら、他愛のない話をする私たち。
「ねえ、ひかりちゃん。”花”を見たくない?」彼は突然そう言った。
「え? どうやって?」思いがけない提案だったので、思わずそう答えてしまった。
彼は立ち上がり、スマートフォンのシャッター音をさせて、言った。
「あのね、僕が目標にしてるアプリ開発会社が開発した、色覚や視覚に障害がある人たちのためのアプリなんだけどさ。樹木を自動判別してくれるんだ」
寒椿。
ドウダンツツジ。
ニシキギ。
そして、母親の名前――桜。
私たちは色々な樹や草や花の写真を撮って、名前を付けて保存していた。
少しずつ肌寒くなってきたところで、「そろそろ行こうか」と彼は言った。
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