第24話 代理配信

 網谷さんのスマートフォンを預かり、配信の方法だけを教えてもらった私は、明日の朝何を話せばいいのか考え込んでいた。


 入院していることは伝えた方がいいだろう。2,3日だと言われていたのだから、病名までは言わなくてもいいだろう。病院名は当然明かすべきではないだろう。


――デート中に病院に行かなければならなくなったからスマートフォンを預かった、という話は、すべきだろうか――


 網谷さんはよくも毎朝一人で30分間も話していられたものだな、私は感心した。


 結局あまり考えがまとまらないまま、眠ってしまった。


 ***


 朝7時。私は配信をスタートする。


「みなさまおはようございます。配信側では初めまして、花です。枠主は2,3日入院になりましたので、代理を務めさせていただきます」


 当然のようにざわつくコメント。

 が、読み上げの中に、気になる単語が何度も何度も混ざっていることに気付いた。


 ”美人”

 ”可愛い”

 ”綺麗”

 "尊い"

 "俺と結婚してくれ"


「あああ、ありがとうございます、あの、私、全然、そんなんじゃ……!」私は焦った。


 私は、世間一般的に見て、そういう部類なのだろうか? そう思ったと同時に、ビデオ配信のままにしていたことに気付いた。ラジオ配信にすればここまでややこしいことにはならなかったのに、教わるのを忘れてしまっていたのだ。


 ***


 初めての配信で30分間も話せるわけもなく、とにかく数日で退院予定なので心配は要らないということと、彼が配信できるようになるまで私が代理で配信することだけを伝え、最後につとめて元気な声で言った。


「すみませんが本日はここで終了させていただきます。みなさま、健康には気を付けて、今日も一日頑張ってください!」


 ***


 網谷さんのお見舞いに行くことにしていたが、あいにく白杖で歩いて行くには遠すぎた。障害者支援でタクシーの500円割引券を毎年48枚もらっているが、まとめて使えるチケットではないのであまり役に立たない。


 私は、初めて電車とバスを乗り継ぐための勇気を出した。駅までは行けるのだ、そこから先はなんとかなるだろう。なんとかできるだろう。

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