第49話 閑話 シロガネ 10

 牢を出ます。


 最奥の場所に位置していたのか、他には牢は無いようです。

 他に何かいる気配もありませんね。


 取り敢えずの安全を確認できたので、首輪を爆弾魔スキルで破壊します。


 爆発音が響きます。


 誰も来ません。


 先程の番人を怒りに任せて、鬱憤をぶつけるように殺してしまったのは失敗でしたかしら。


 でも、首輪をつけられた状態でしたし、油断して手加減していたら、どんな隠し玉を持っていたかわかりません。

 先程のは、あれが最善だったとしましょう。


 ゆっくり、慎重に警戒しながら進みます。


 しばらく進むと、前に上りの階段が見えてきました。

 音をたてないように上がっていきます。


 階段の最後の部分が檻で上から封鎖されています。


 錠は、壊せそうです。

 でも、壊したら一気に敵が集まって来そうですね。


 しばし悩みますが、結局強行突破しかありません。



 行きましょう。



 大きく深呼吸をひとつして、錠を爆弾魔スキルで爆散させます。

 一気に駆け出します。


 周辺視野をフル稼働させ、霊感スキルも発動します。

 全力疾走しながら、見える断片的な周囲の様子。高級そうな建物の中のようです。

 人の兵士ばかりです。異形の敵は見当たりません。


 兵士たちが集まって来ました。

 近寄る兵士達を突貫してはね飛ばし、駆け続けます。

 兵士をはねる度に、肉を鈍器で殴るような、鈍い音が響きます。


 今も左右から迫ってくる兵士。右は腕で薙ぎ払い、左はそのまま体当たりで飛ばします。

 薙ぎ払われた兵士が頭から石の壁に激突したのが駆け抜ける際に目の端に映ります。


 兵士たちがいくらでも沸いてくるようです。

 運良く、兵士の鎧が重いのか、追いかけてくる兵士は走るのが遅く、追い付かれることはありません。

 ですので、基本兵士は、前方ばかりに現れます。はねやすいですね。


 分かれ道を何度もその場の直感で駆け抜けて行くと、小部屋に着きました。

 息を整えるため、小部屋に入り込むとドアを閉めます。


 小部屋を見回すと、備品置き場のようです。

 あれは!

 わたくしが塔から持ち出した装備品があります。

 いそいで取り戻すと、身に付け始めます。

 両手にはめた籠手を打ち合わせます。

 重たい金属音。

いつの間にか馴染みになっていた感触に口が綻びます。


 あまり休んでも居られないので、また駆け始めます。


 だんだん内装が豪華になってきました。

 それにあわせて、兵士も数が増えます。さらに重装備の騎士たちが現れ始めました。


 騎士は重くて、はねるのが一苦労です。

 何とか歩みを止められることなく進み続けます。


 しかし、速度が落ち始め、だんだん囲まれ始めて来ました。

 それでも近寄る兵達を薙ぎ払い、時にアイアンクローで持ち上げ投げます。


 周りを取り囲む兵士たちも腰が引けているのか、状態は均衡を保っています。


 そんな中、急に兵士たちがざわめき始めます。


 何を言っているのか、耳をそばだてます。


「おい、英雄様だ」


「金色の剣姫がきて下さったぞ」


「晩餐会に参加のはずじゃ」


 ざわざわとした兵士達の会話の断片が聞こえます。


 急に囲っていた兵士たちが二つに別れ、間に道ができます。


 兵士の作るの道。


 その道を、一人の少女が歩いてきます。

 静まり返る周りの兵達。

 兵達は、まるで女神が降臨したかのように、敬虔に、厳粛に、その少女を迎えます。


 紫陽花色のイブニングドレスを身に纏った、銀髪深紅の瞳の少女。

 左右の手に、ショートソードとナイフを垂らし。

 その深紅の瞳には戦意を満たし。

 まるで体重を感じさせない歩みでこちらに迫ってくる少女。


 わたくしは明らかに体格で自分に劣るその少女に、底知れない力量を、圧倒的な脅威を、感じてしまいます。


 逃げ出したくなる弱気を、臆病風に吹かれてしまいそうな自分自身を叱咤するため、左右の籠手を大きく打ち鳴らし、構えます。


 一つ呼吸を整えると、叫び声をあげ、突貫します。


「この道、通させて頂きますっ!」




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