第36話 閑話 シロガネ 5

 カルドが旅立つ姿を見送る。


 そっとドアを閉め、ふりかえり、静かにガッツポーズ。


「やりました。自由ですっ」


 目の上のたんこぶの存在が居なくなり、一人嬉しさを噛み締めます。


 もちろん、カルドが居なくなったからと言って、大きくやることが変わるわけではありません。


 しかし、被抑圧者にとって、一時とはいえ、抑圧者のいない生活は何物にも替えがたい喜び以外の何物でもありません。


 カルドがいない間に、これからのことを考えなければ。


 最優先すべきなのは生活手段の確保でしょう。


 カルドから資金は提供されておりますが、こんな紐付きのお金はあまり使いたくありません。


 となると、生活費を稼がねばなりません。


 わたくしのスキルでは、なにかを作ったりしてお金を稼ぐのは難しいです。

 一つの生産系のスキルでは、スキルの伸びの悪いわたくしでは大したものは作れませんし。


 そうすると、なるべきは……冒険者ですね!

 私の知識の中では一番の選択肢です。


 鍵さえ閉めれば外出してもよいとカルドも言っていましたし、さっそく私も旅に出ましょう。


 旅の準備と、後はスキルの再確認をしなければ。


 人造霊魂レベル1 

 異世界知識レベル1 

 毒舌レベル2 UP!

 工作レベル1 

 石器使いレベル1 

 道化師レベル2 UP!

 アイアンクローレベル1 

 爆弾魔レベル1 

 釣りレベル2 UP!

 霊感レベル1


 スキル、レベルの上がっているものがありますね。

 ……釣りスキルは、わたくしの努力のたまものですね。

 釣りスキル以外は見えませんわ、ええ。


 ……毒舌、道化師ですか。

 ……ちっ!


 気を取り直して、まずはカルドの部屋を漁りましょう。何か役に立つものがあるはずです。


 自由にしてよいと言質は頂いてあるのです。

 触っていけないものは触れないようになっているはずです。

 つまり、触れるものはわたくしの物ってことですね。

 今から、わくわくしますね。


 さっそくカルドの部屋の扉を開けます。

 鍵はかかっていません。


 まず、第一関門は突破です。


 さて、どこから漁りましょう。


 わたくしは部屋を見回します。


 錬金術関係の道具や材料が置いてあるところはパスですね。

 出来たら完成品が置いてある所からですね。


 壁際の棚をゆっくり見て回ります。


 怪しげな素材が沢山あります。

 でも、カルドはインベントリがあるので、ここら辺の物はカモフラージュか、見た目気に入って飾ってあるだけの可能性が高いです。


 この棚はパスですね。


 棚のとなりはクローゼットですか。

 下着とか出てきたら嫌ですが、使えそうなマントでもあれば貰っておきたいところです。


 勇気を出して突撃しましょう。


 わたくしは迷いを振りきるように、勢いよくクローゼットのドアを開けます。


 中はウォークインクローゼットのように奥行きがあり、左側に服系の物、右側にそれ以外の物が並んでいました。


 まずはゆっくりと左側の服系の物を見ていきます。


 雑然としていますね。


 カルドの性格の適当っぷりがあらわれています。


 あら、このコートとか良さそうですね。

 色は地味ですが、フードもありますし、撥水しそうです。


 他にめぼしいコートは見付からないですし、これはキープです。


 次は反対側の雑多な物を見ていきましょう。


 この肩掛けバッグは大きくて便利そうですね。

 刺繍が、はではでしい割には所々ほつれています。下手な技量……。まあ、そこはマイナスですが、旅の荷物を入れるにはちょうど良さそうです。


 肩掛けにすると動きの邪魔にもならないです。

 これもキープです。


 あら、ここは手袋ですか。

 フィンガーレスでナックルガードに何か補強が入っている物があります。


 これも一応キープしましょう。


 その後も色々と漁りましたが他にはめぼしい物はありませんでした。


 ベッドの下ももちろん探しました。合掌。



 ウォークインクローゼットの奥にある姿見の前で、揃えた物を装備してみます。


 なかなか似合っているんじゃないでしょうか。もとが良いので何を着ても似合うのでしょう。


 何の気なしにステータスを開くと、装備欄にアイテムが追加されていました。


 装備品扱いになるんですね。


 どう表記されているのでしょうか。

 じっくり見てみます。


 コートは……防水コート。

 普通ですね。

 防水してくれるのなら、よしとしましょう。


 カバンは……疑似インベントリバッグ。

 これは良いものです。ほつれた刺繍の癖に、マジックアイテムになっているようです。どれくらい入るか、時間が止まるか否か、後ほどよくよく調べて差し上げましょう。


 ナックルガードは……破魔の籠手。

 これもマジックアイテムのようです。

 カルド、意外と良いものを隠していました。

 効果は実際に使っているうちにわかるでしょう。


 カルドの部屋を出て、台所に向かいます。わたくしがうきうきと、ナイフや携帯食糧を漁って、疑似インベントリバッグに詰めていると、ノックの音が響きました。


 あら、お客様ですね。

 珍しいです。


 私が産まれてこのかた、この塔にお客様がいらっしゃるなんて始めてです。


 私はゆっくりと両手を組み、意識を張り巡らします。

 霊感スキルが発動します。

 二人組の人間ですか。ええ、大した相手ではない予感がします。


 わたくしはそれでも気を抜かずに、ゆっくりと外に繋がる扉を開けました。






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