第47話 紫陽花を愛でる晩餐の集い
錬金術で一通りのものを作り終え、片付けをしていると、扉がノックされる。
リリムが帰ってきたかなと開けると、宿の女主人が立っていた。
変な顔をしている。
こちらを警戒しているのか、他に心配事があるのか、そんな、あやふやな表情だ。
手に持った封筒を渡してくる。
「お客さん、これ、この街の裏カルテル経由で届いているよ。あんた何者だね」
何者と言われても困るので、無言で手紙だけ受けとる。
その様子を不安げに見ていた宿の女主人だが、結局何もそれ以上は言わずに去っていく。
部屋に戻って手紙の外側を検分する。
蝋で封がされて紋章の印が押されている。初めて見た。
それ以外に宛名も差出人も書かれていない。
開けるか迷っているとリリムが帰ってきた。
「ただいまー。面白い情報はいくつかあったけど、手掛かりはなかったー」
酒臭い。
私は微妙に距離を取る。
手の中の手紙を眺めながら、リリムに生返事を返していると、ひょいっと手紙を奪われる。
「あっ」
そのままビリビリ破り出すリリム。
「勝手に開けるなよ」
思わず文句を言うが、リリムはどこ吹く風で手紙を読み始める。
これだから酔っぱらいは……。
取り返そうと手を伸ばすが、そのまま手を頭の上まで上げて、仰ぎ見ながら読み続けるリリム。
と、届かない、だと。
いや、リリムの方が背が高いのは知っていたけどさ。
実力行使するのも大人げないので、諦める。
「リリム、読み終わったら返せよ」
「読み終わった。食事会の誘いだな。貴族からの」
そう言いながら手紙を渡してくるリリム。
ざっと流し読みをすると、確かに三日後の『紫陽花を愛でる晩餐の集い』と言う、食事会のお誘いらしい。最後に差出人らしき貴族の名前があるが、当然知らない名前だ。
「その貴族は軍閥系のかなり上位のやつだぞ。なんでそんなのから手紙を貰っているんだ、カルドは」
「なんでだろうな。今回の一連の騒動の仕掛人が自信満々で挑発してきているとか?」
「騒動? 居場所まで知られているってことは、そいつの手のひらの上で転がされているんじゃないか、カルド。」
「それは否めないが」
その時、ロイが戻ってきた。
どうやら収穫は無いらしい。
しょぼんとした雰囲気のロイをこっそり慰めておく。
「そういや、リリム。面白い情報って?」
「ああ、英雄様が戦線から戻ってきてるらしいぞ。何でも三日後には王都の晩餐会に出席するんだと。普段は駐屯地にいて王都の中にはなかなかいらっしゃらないから、ファンが一目見ようと騒いでた」
「ふーん。ミーハーなのはどこにでもいるんだな」
「ミーハーってなんだ」
「いや、何でもない。この『紫陽花を愛でる晩餐の集い』とやら、出るしかないな。他に手掛かりがない」
「そうか。じゃあエスコートされてやるから、ドレスはよろしくな」
「エスコート? ドレス?」
「貴族の食事会、しかも晩餐なら当然。ドレスもエスコート相手も必須に決まってるじゃないか。カルドも正装しなけりゃ舐められるぜ」
「……服がない」
「三日もあらば金積めば何とかなるさ。おすすめの店、あるから行こうぜ」
そういうとリリムはなぜか楽しそうに私の腕を引っ張る。
そのまま強引に引きずられ、服屋に行くこととなってしまった。
やれやれ。
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