第24話 北門の攻防

 北門が見えてきた。


 一度足を止め、遠目に様子を伺う。


 雨で見通しが悪い中、目を凝らす。


 ああ、遅かったか。門は破られてしまったようだ。


 北門の内側の広場で、激しい殺しあいが繰り広げられている。


 門の上にはまだ統制の取れた兵士達が生き残り、決死の表情。


 次々に矢を射かけている。


 当たった敵が次々と倒れていく。


 どうやら私の提供した眠り薬は活用されているようだ。


 ゲーム時代は確率判定15%で状態異常眠りになるものだった。その時、眠り薬を塗ったものでダメージを与えたら、体に入ったものとして、継続的に確率判定が起きると言う仕様だった。

 現実となった今は、どうやら常時確率判定が起きているっぽい。

 次々に敵が寝ていく。

 しかし敵の勢いは止まらない。寝ているものを踏み潰し、乗り越えて、それ以上の数の敵がどんどん門から雪崩れ込んでくる。


 そこかしこから煙が上がっている。

 火矢用か、壁から流す油用に火を焚いていたのだろう。雨で消えないように松ヤニ系の何かを混ぜたようで、きつい臭いがここまで漂ってくる。

 その火が敵の侵入で倒され、建物にも飛び火してしまっている。


 ひどい煙だ。


 ここからじゃ全体が見渡せない。


 私はクレナイに頼み、近くの建物の屋根の上まで連れていってもらうことにする。


 クレナイは私の腰にクルンと巻き付く。そこからは粘体を屋根の上まで伸ばし、一気に引き上げる。


 なかなかの加速にちょっと肝が冷えるが、緩やかに減速し、スムーズに屋根に着地する。


 ようやく辺りを一望できる場所に来た私はどれぐらいの数の敵が残っているのかと、門の外へ視線を向ける。


 見える限りの土地が全て敵で埋まっていた。


 あまりの敵の数に唖然とする。しかし、すぐに気を取り直す。


(門の上の兵士達を少しでも助けてあげないと。このままじゃ時間の問題だ)


 私はさっそく暴走魔石を使うことにする。


 威力の範囲が不明なので、まずは北門を超えて、町の外に広がる敵に投げつけることにする。


 インベントリから一番最初に作った一番小さな魔石を使った暴走魔石のポーションを取り出す。


 クレナイに渡して、どの方向にどれくらい投げてほしいか伝える。


 クレナイは器用に私の渡した瓶をその粘体の体で掴むと。門とは逆方向に長く長く粘体を伸ばし始める。


 粘体の先端にはポーション。


 のびきった所で、一瞬の静止。


 そして、急速に速度を速めながら粘体が縮む。


 どんどん加速されるポーション。


 ついに最初のクレナイの居た場所まで体を収縮し、一気にポーションが北門の外へ向かって放たれる。


 きれいな放物線を描き、ポーションは飛んでいく。


 北門を軽く超え、町の外の敵の大群の中へ吸い込まれていく。


 何も起きない。


(あれ、作成失敗したか?)


 と、冷や汗が出掛けた瞬間。


 ポーションの着弾した場所から膨大な魔力が吹き荒れ始める。


 溢れた魔力が世界を変革し始める。


 大地に触れた魔力は土を、槍の形に、斧の形に変え、周囲の敵に突き刺さり、切り刻む。


 大気に触れた魔力は、空気を毒に変えたのか。紫色、赤色、無数の色のガスが吹き出す。

 それは吸った敵達はあるものは痙攣し、あるものは体を溶かし、地に臥していく。


 生き物に触れた魔力は、異形の存在をさらに歪めていく。

 足が生えるもの、腕が伸びるもの。しかし、その全ては、想像を絶する激痛を伴うのか、どの敵達も悶え苦しみ、暴れまわる。


 それは全然、爆発などではなかった。


 戦場に突然現れた異質な空間、訳もわからずに突然現れた虐殺の現場に、敵も、人間達も争いをやめる。

 未知の何か恐ろしい出来事が起きていることだけは皆、理解し、虐殺の現場へ恐怖に満ちた視線を向けている。


 私はさっきから冷や汗が止まらない。

 完全に想定とは異なる現象。

 ただ、爆発して敵を倒すだけだと思ったのに、まるで地獄が現出したような惨状、そのあまりの残酷さに吐き気がする。

 その惨状を産み出してしまった自分への嫌悪に押し潰されそうだ。


 しかし、私に出来るのは、これだけ。敵もまだ大量に残っている。


 運良く、まだ私の存在はばれていない。


 私は震える手で、何とかインベントリから暴走魔石のポーションを取り出す。


 それをクレナイに渡す。投げる場所を指定し、投げて貰おうと町の外を見た、その時。町の外を埋めつく敵の向こうに金色に輝く煌めきが目にはいる。


 はじめは何かの見間違いかと思った。しかし、金色に煌めきは急速に敵の方へ近づき、接触する。


 良く良く目を凝らす。レベルMAXのこの体は目も良いらしい。


「あれは! イブが戦っているのか?」


 そこには、私の見たことのないイブの姿があった。






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