第37話 閑話 シロガネ 6

 わたくしが扉を開けると、やはり人間の二人組が外に立っておりました。


 こちらを攻撃する様子はありませんが、だいぶ切羽詰まった雰囲気です。


 髭のおじさんとムキムキのおじさんです。


 髭のおじさんが話しかけてきました。


「こんにちはお嬢さん。カルド殿はいるかな?」


 わたくしは答えます。


「カルドは出掛けています。しばらく戻りません」


 髭のおじさんが少し困ったように言いました。


「中で待たせてもらってもいいですか。私はラインバルブと言って、カルド殿とは懇意にしている商人なのですが」


「構いませんが、帰ってくるのが何日後か、何年後かわかりません。私も出掛ける予定なので、待てなくなったら、鍵だけかけて下さいますか」


 ムキムキの方が思わずと言った感じで口出ししてきます。


「お嬢さん、出掛けるのに、人を家にいれちゃ駄目だろっ」


 これがツッコミという物でしょうか。

 わたくしは自身の記憶を漁って最適な答えを探します。


「それではお茶でも振る舞いますので、飲んだら出てって下さいますか」


 なぜか苦笑する二人。焦燥した様子ながらも、お茶は飲んでくようで、部屋に入ってきました。


 わたくしはお茶の支度を始めます。

 最近色つきの水よりましになったねとカルドも誉めていた自信作です。


 おじさん二人が、一口飲んで、顔色を変えています。喜んでいるようで何よりです。


 一息ついたところでおじさん二人が改めて自己紹介を始めます。

 ムキムキの方はケルスナーと言うそうです。


 仕方ないのでわたくしも名乗ります。


「わたくしの名前はシロガネと申します。カルドの義理の娘で、この塔に住んでいましたが、出掛けるところです」


「シロガネさんは、カルド殿の娘さんでしたか! それじゃ、貴女も早く逃げた方がいい」


「何かあったのですか?」


 おじさん二人が顔を見合せています。どうやら目だけで会話しているようですが、ぶっちゃけ気持ち悪い絵柄ですね。

 ムキムキが軽く頷いて、それを見てヒゲが話始めました。


「シロガネさんも無関係ではないから事情を説明させてください。カルド殿が国家騒乱罪で告発されています。ここにも国の手の者がカルド殿を捕らえに向かっているところです」


「カルドが何か罪を犯したのですか?」


「違います。完全に濡れ衣です。告発の内容は違法なポーションの製造、販売となっていますが、実際には陰謀です」


「陰謀、ですか?」


「はい、しかも国の有力者が何人も絡んでいるようです。私が調べた限りでも、イブさんが英雄視されるのを良く思わない軍部系の上級貴族や、カルド殿のポーションの技術が欲しい生産カルテルの上層部など複数人が結託しているようです」


「それは、冤罪なんでしょう? どうにもならないんですか?」


「私もカルド殿のポーションに関わったとして追われています。私のツテのある貴族ではどうにもなりませんでした。捕まってしまえば終わりでしょうね。私は口封じで殺されてしまうはずです」


「大変な状況ですね」


「シロガネさん、貴女の方がもっと大変ですよ! カルド殿に言うことを聞かせるための手札として、絶対に狙われます。早く逃げた方が良いです」


「わざわざ教えてくださり、ありがとうございます。お二人はそれをカルドに伝えに来てくださったんですか」


 俯くラインバルブ。


「お恥ずかしい話、私の商会はもう潰されてしまいました。カルド殿ならともに追われるもの同士、助けて下さるのではと、藁にもすがる気持ちでした」


 わたくしはしばし考えます。

 冒険者を希望するわたくしとしてはこれは依頼のチャンスでは、と思い付きます。なので、その事を二人に伝えることにしました。


「ラインバルブさん、良ければ私が護衛しましょうか。こう見えて並の人間よりは強いですし、私は冒険者になりたいので、依頼として受けますよ」


 わたくしはどや顔で二人に提案します。


 ヒゲがムキムキの方を向きます。

 ムキムキが口を開きます。


「確かにこのお嬢さんは強い。俺じゃ敵わない」


 それを聞いてヒゲが話し出します。


「願ってもない話です。宜しくお願いします。ところで冒険者とは?」


 わたくしは二人の護衛が決まったので、二人を旅の仲間と認めることにします。しかし、冒険者を知らないとは。

「冒険者と言ったらもちろん、冒険者ギルドに登録して、薬草の採取やゴブリン退治をしたり、ギルドに来る依頼をこなしたりしてランクを上げる職業に決まってます」


「ケルスナー、聞いたことあるか?」


「いや、知らないな。聞いてると傭兵カルテルが一番近そうだが。だが、傭兵カルテルに加入するには最低10人以上の傭兵団じゃないとダメだ。後はダンジョンに潜るティガーと言う職業はあるらしいが」


「……冒険者ギルド、ないんですか?」


 なぜか熱い液体が目蓋から流れます。


 突然慌て出すヒゲとムキムキ。なぜ慌ててるのでしょう。


 ムキムキが慌てて話し出します。


「ティガーなら、隣の隣の国まで行けば、なれるかもしれないぞ。確かダンジョンが最近また現れたらしいと言う噂があったよな、ラインバルブ」

「ああ、ありました。噂ですが。でもここから逃げるなら、そっちに行ってみるのも手かもしれないですね。護衛もお願い出来るとのことですし、ティガーのいる国を目指してみましょうか」


 こうしてわたくしの、ヒゲとムキムキとの旅がはじまりました。


○シロガネ スキルレベル一覧○


 人造霊魂レベル1 

 異世界知識レベル1 

 毒舌レベル3 UP!

 工作レベル1 

 石器使いレベル1 

 道化師レベル2 

 アイアンクローレベル1 

 爆弾魔レベル1 

 釣りレベル2

 霊感レベル1

 盗賊レベル1 new!


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