第22話 来訪

 町が騒がしいな。


 イブが出掛けてしまった後、いつものようにポーションの作成していた私はふと、外の様子が気になった。


 嫌な予感がして、営業中ではあるが、店舗に顔を出してみることにする。


 ちょうど客は誰もおらず、マルティナさんとマリアさんが雑談をしている。


「あっ、店長。珍しいですね。この時間にお店に来るなんて」


「マルティナさんとマリアさん。お疲れ様です。なんだか外が騒がしいみたいだけど」


 マルティナさんが何か話そうと口を開いたとき、勢い良く外につながる扉が開く。


 ラインバルブが早足に店内へと入ってくる。


(ラインバルブ本人が直接この店まで来るのは最近少なかったのに)


 嫌な予感が増長する。


 ラインバルブはこちらに気づいて近寄りながら声をかけてくる。


「カルド殿! 良かったここにいて」


「ラインバルブ殿、いらっしゃい。何かあったみたいですね。取り敢えず奥でお茶でも」


 私は応接に使っている部屋を示しながらラインバルブを誘う。


「お茶は結構。お邪魔だけします」


 そう答えながらラインバルブは早足で応接に向かう。


(あのラインバルブがお茶を断るのか)


 私は余程の事態だと覚悟する。


 部屋に入り、席につく間もなく、開口一番ラインバルブは用件を話し出す。


「カルド殿、落ち着いて聞いて下さい。イブさんが参加した見学実習の隊が、何者かに襲われました。現在、生存が確定しているのは、ハリーという斥候、伝令の訓練を受けていた生徒一名のみ。イブさんを含む他の方達の生死は現在不明です」


 ラインバルブの話が耳を素通りする。あまりに内容が突然過ぎて、ぽかんとしてしまう。

(えっと、あれ、どうしよう。なにからしようか。何から考えたらいいんだ)


 私はいつの間にかしゃがみ込んでいたようだ。茫然としていると、ラインバルブは軽く私の両肩を揺すり、また話を続ける。


「しっかりして下さい! イブさんのことが心配だろうと思いますが、まだ、話は終わっていません! しっかり聞いて下さい。」


「あ、ああ。すまない」


 私は何とか立って、近くの椅子まで移動して座る。


「いいですか、よく聞いて下さいね。イブさん達を襲った存在ですが、人型の何か。詳細はわかりません。実際に敵を見ているハリーも、何かわからないと言っていました。問題はその敵は軍隊規模での侵略行為を行っていると言うことです。この三叉路の町にも敵の軍が侵攻中です。現在町は戒厳令下になります。もうすぐ町全域に避難勧告が出る予定です。私をはじめとした町の主な商会は先に召集されて戦時の物資の供給を命じられているんです」


 ラインバルブはそこまで一気に話すと、わたしの目を覗き込みながら次の言葉を発する。


「私はこの三叉路の町を守りたい。カルド殿、あなたの力が必要なんです。どうか、この町を救ってください」


 私は一気に話された内容に頭が混乱する。

 ただ、ラインバルブが私のことをどういう風に考えているかは何となく分かった。自分が転生者であり、この世界で特異な力を持っていること。

 当然ある程度はバレてしまっているのは覚悟していたが。


(そうだ、ロイだ)


 私はラインバルブに断り、考える振りをして、こっそり急いで自身のステータスを確認する。


 ステータス画面を開くがラインバルブはじっとこちらを見ているだけで特に反応は示さない。


(ステータス画面は見えていないようだな。使い魔の項目は……。あった。よし、ロイの項目はある!)


 私は急いでロイの項目の詳細をチェックする。


(ヒットポイントは、少し減ってはいるが生きているぞ! 良かった。もしかしたら、戦闘はあったのかもしれないが。)


(あれ? ロイのスタミナが少し減っては、最大値が増えて、その最大値まで回復しているぞ?)


 私を少しだけ気にはなかったが、それよりも、文字通り死んでもイブの事を守るように命令していたロイが生きていることで、イブの生存の可能性が高いことに安堵した。


 イブのことから、意識を切り替える。


「ラインバルブ殿、確認ですが、敵の軍のこの町への到着予定時刻はどれぐらいで想定されていますか。敵の規模は完全に不明ですか?」


「早くて一時間。遅くとも三時間です。規模は斥候を出していると聞いています」


(ふーむ。新しく錬金術を使う時間は無さそうだな。今手持ちを最小限残して提供するぐらいしか出来ないな)


 私をラインバルブに伝える。


「ラインバルブ殿、あるだけのポーションは提供しましょう」


「ありがとうございます! カルド殿ならそう言っていただけると思っていました。カルド殿のポーションがあればだいぶ助かります。馬車を数台こちらに向かわせていますので、そこにお願いします。」


 私はラインバルブの相変わらずの手回しのよさに鼻白む。

 そんな私の様子をあえて無視してラインバルブは続ける。


「お支払いは戦時国債となります。こればかりはご承知下さい」


(戦時国債か。侵略される可能性に対して、そこまで国から指示が出てたってことか)


 私もラインバルブにやり返すつもりで、これまで隠していた眠り薬のポーションをイヘントリから取り出し、ラインバルブに渡す。


「これは? 初めて見るポーションですね」


 ラインバルブに答える。


「このポーションは非常に強力な眠り薬です。使い方は、矢じりか剣などに塗って相手を傷つければ体内に入り、解毒しない限り、数分以内には寝てしまう眠り薬です。投げつけても大丈夫で、ビンが割れると気化します。この気体を少し吸うだけでも同じように寝てしまいます。矢じりとかに塗るときは瓶を割らないようにだけ気をつけて下さい。眠り薬の気化に、瓶の破損が条件付けされていますので」


「カルド殿、なんと強力な切り札を。ちなみにどれぐらいの数をお持ちで?」


 私は急いでイヘントリを確認して答える。


「およそ、三千本」


「っ! そ、それだけあれば、今回の防衛戦、何とかなるかもしれませんっ! 私は急いでこの事を上層部に伝えに行ってきます。申し訳ないのですが、うちの商会の馬車が来たらよろしくお願いいたします」


 そういうと、ラインバルブは私の渡した眠り薬を手に、店を飛び出して行った。


 入れ違いで、すぐにラインバルブの商会の馬車が何台もやってくる。

 インベントリからポーションをそのまま馬車の中へ取り出し、あっという間に積込を終わらせる。

 確認もそこそこに馬車が走り去る。


 私は念のために、敵が攻めてくるまでの間、錬金術でこれまで試していなかったことを試してみることにした。


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