第50話 閑話 シロガネ 11

 静まり返る兵士達に囲まれ、目の前の少女に全力で駆け寄ります。

 その勢いのまま、籠手を着けた右手で殴りつけます。


 籠手が届きますっ、と思った瞬間。

 少女が突然金色の光を纏い、両手の剣を交差させ、わたくしの籠手を受け止めます。


 受け止めた衝撃で、少女の足元の石の床が砕け、足が僅かに床にめり込みますが、それだけです。

 少女は涼しい顔で、歌を歌っているようです。


 全力でバックステップし、距離を取ります。


 わたくしの全力を受け止められたのは、クレナイに続いて二回目です。


 強敵の出現に思わず昂って問いかけます。


「わたくしはシロガネ。あなたのお名前を教えていただけるかしら?」


 その少女は言葉短かに答えます。


「イブ・レインホールド」


 そう答えると、今度はイブが、高らかに歌い出し、斬りかかってきます。


 はやっ、あ。


 とっさに掲げた右手の籠手で何とか剣撃をとらえ、いなします。

 籠手に触れると僅かに光が弱まるようです。お陰で、何とかギリギリ耐えることが出来ます。

 しかし、休む間もなく、次々と剣撃が襲いかかります。


 懸命に籠手を合わせていきますが、捉えきれない剣撃に、徐々に、徐々に体の肉が削がれて行きます。


 切り傷がっ。抉られるっ。

 瞬く間に、傷が全身に。


 懸命に、斬撃に籠手を合わせます。

 一撃一撃が死を招く斬撃。それが嵐のように襲いかかってきます。


 あ、また。


 少しでも失敗すれば、今みたいにごっそりと肉を持っていかれます。


 すでに、全身傷だらけ。

 あっという間に血で染まる体。


 止めどない、圧倒的な斬撃の嵐は、心すらも急激に蝕んでいきます。わたくしの戦意と反抗心も、ズタズタに切り裂かれています。


 ふと、静寂が訪れます。


 イブが歌をやめ、こちらを見ながら口を開きます。 


「良く耐えた、ね。本気で、行く。」


 どうやら親切にも、死刑宣告をしてくれたようです。


 イブが合図をすると、兵士達の一部が、歌い始めます。

 ホールに響く歌。

 ともに歌い出す、イブ。


 これまでとは比べ物にならないぐらい明るく、イブの纏う金色の光が瞬きます。

 合唱が、光が、戦いの場であるホールに満ちて行きます。


 まるでわたくしのレクイエムを奏でるコンサートみたいです。

 あまりの神々しさにそんな場違いなことを思ってしまっていた瞬間、イブが、消えます。


 斬撃が、くる。


 とっさに本能だけで左手の籠手を、勘でかかげます。


 目に追えない速度で迫ったイブの斬撃に、何とか合わせることができた。

 と、思った時には、イブのショートソードが籠手を割ります。

 そのまま、左手を切り飛ばし、腹を裂き、臓腑をえぐり取っていきます。


 衝撃で撥ね飛ばされます。

 ゴロゴロと、ぼろ雑巾のように、内蔵を撒き散らしながら床を転がり、止まります。


 か、からだが言うことをききません。

 絢爛豪華な天井が目にうつります。

 首すら動きません。

 わたくしはここまで、ですかね。


 圧倒的な死の予感が、わたくしの心に満ちます。

 せめて最後に、一矢、報いたい。


 わたくしはダメ元でステータスをひらきます。


 試して、いないのは、もう、これ、だけ、ですね。



 わたくしは、融合スキルを、使用しました。


 ピコンッ


 電子音が鳴ります。


 メッセージが表示されます。


『融合 可能なスキルが あります。スキルの融合 を実行 いたします か。』


 わたくしは、血を失いすぎて、朦朧とするなか、実行、と念じます。


 ピコンッ


 また、電子音がなり、メッセージが表示されます。


『人造霊魂 異世界知識 毒舌 道化師 盗賊 のスキルが融合 されます。融合 開始。』


『ピー、ガッガッガ。ピー、ガッガッガ。ピー、ガッガッガ。ピコンッ』


 なんだかチープな機械みたいな音がします。そのうるさい音が、わたくしの途絶えそうな意識を、苛立ちで引き留めます。


『隠し 称号、特異点カルドの眷属 を確認。隠し称号へのアクセスを 許可。融合 が継続されます』


『ピー、ガッガッガ。ピーガッガッガ。ピー、ガッガッガ。ピコンッ』


『融合 完了』


『異界神ロキの祝福 を獲得しました』


 ピコンッ



『異界神ロキの祝福が発動 します』



 そのメッセージとともに、天から銀の光が降り注ぎます。

 ホールの天井を透過し、白銀色の光が差し込みます。


 白銀の光が、わたくしを中心にして降り注ぎ、照らし出します。


 ピコンッ


『祝福 がなされました』



 白銀色の光のなか、わたくしのキズがふさがり、腕が一瞬で元通りになります。

 まるで神の御業、奇跡の発現に、それを目撃したまわりの兵達に、動揺がはしります。

 イブですら歌をやめ、こちらを眉をひそめ、睨んでいます。


 わたくしは、立ち上がると、ゆっくりと左手を握りしめます。


 動きます。


 それに体が軽いですが。白銀の光は消えず、わたくしを取り巻いています。


 素早くステータスを開き、異界神ロキの祝福の詳細を見ます。


 異界神ロキの祝福:反逆者かつ簒奪者たる道化を祝福する。代償を支払い発動。格上に挑む際に、ステータスの補正大。HP全快。初回発動時、スキル:ロキ神の神官 を獲得。


 これは、いけるかもしれません。

 第二ラウンドと洒落込みましょう。


 再び取り巻きの兵達と合唱を始めて、金色の光を纏い始めたイブ。

 わたくしは、白銀色をした神の加護を身に纏い、金色に輝くイブと再び対峙します。


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