第5話 森へお出掛け
日差しが眩しくて目が覚める。
(数時間は寝たかな)
サクッと初級清浄ポーションを作り、頭から被って、身だしなみを整える。
寝る前に裂傷を負った右手の状態を確認する。
傷は無事に塞がっている。さすがゲーム仕様の体。自動HP回復は素晴らしい。
この世界の人間に知られたら気持ち悪がられそうだから内緒にしておこう。
落ち着いたら昨日消費した初級マナポーションとスタミナポーションを作って補給しておく。
しばらく黙々と歌い続ける。
部屋を出て、外に向かう。出る時に、宿の主人からまたこの時間まで寝てたのかという視線を浴びるが、言い訳するのもやぶ蛇だし、華麗にスルー、一択。
宿の主人にここら辺の近くの薬草なんかが取れる場所を尋ねる。西門を出て、海運の町に向かう街道の途中に、森が広がっていると教えてもらう。
今日もブランチは蛙肉の串焼きで済ます。
クレナイも従魔になったことだし、早速宿の主人に聞いた森へ、採取に行くことにする。
スライムの魔石が雑貨屋で売っているってことはこの近くで取れるはずだし、森に行けば何か触媒になるものが取れるかも知れない。
クレナイがクリムゾンスライム以上の強さがあるならただのスライム程度、鎧袖一触も容易いだろうし。
私? 錬金術師は生産職です。後方支援や補佐が仕事なんで。決していくらレベル高くても、戦いが怖いなんてないから。
いや、すまん。本当にリアルで戦ったことがない人間に、いくら高性能の体を与えたって、戦いが出来るわけないって。
おとなしく採取に専念しますよ。
そのための従魔ですから。
門に向かって歩きながら自嘲する。
(なんだか町の雰囲気が重苦しいな。)
周りをそれとなく見ながら歩き続ける。道行く人の表情が暗い人が多い気がする。
ちょっと気になりつつ、西の門に着く。
こちらも出入りは自由のようだ。
門番に軽く会釈して町の外に出る。
まっすぐに街道が続いていて、先の方で左に曲がっているようだ。道が曲がったあたりに森が見える。
そのまま街道を歩いていく。
町の近くなのに道がぼこぼこしていて歩きにくい。
しばらく歩き、周りに人の目がなくなった頃合いで従魔収納されているクレナイに話しかける。
「クレナイ、その状態でも声聞こえてる?」
影から深紅の塊がちょっぴり出てきて、少し伸びると左右に振られる。
どうやらクレナイ風の手を降るジェスチャーらしい。
収納状態でも活動出来ることを確認していると、森の縁に到着する。街道は森を避けるように曲がっている。
どこか森に入れそうな獣道でもないか、探し始める。
しばらく行ったところでそれらしい獣道を見つけたので、何かあったら守ってとクレナイにお願いして森に別け入る。
なかなかうっそうとしている。獣道とはいえ下生えも旺盛で歩きにくい。
一歩づつ慎重に歩みを進め、物品鑑定を同時に行いながら、何か錬金術で使えるものがないか物色する。
なかなか目ぼしいものが見つからない。
そのまましばらく歩き続けると前方にキラキラ光るものが見える。
目を凝らして見ると水面のようだ。
あそこまで行ってみて、ダメなら戻るかと一歩踏み出した時、左の茂みが揺れる。大きな黒い影が飛び出してきた。ぶつかるっ、と思った瞬間、足元から深紅の細長いトゲが一閃。
そのまま影を串刺しにすると、するすると深紅のトゲは足元に引っ込んでいく。
どうやらクレナイが体の一部を細長く伸ばして迎撃してくれたようだ。
「びっくりしたっ! ありがとうクレナイ」
クレナイにお礼を行ってから影をよく見てみると、大きな蛙が顎から脳天を貫通されて死んでいる。
「これは大蛙ってやつかな。傷口、綺麗に穴が空いている。もって帰ったら肉屋とかに売れるかな」
私は一応大蛙の死体をインベントリに収納し、より一層慎重に水面に向かって歩き続ける。
近づくにつれて水面の様子がよく見えてくる。大きさは沼位だ。水は透き通っていて、太陽の光を反射してキラキラ光っている。
そしてさっきの大蛙のお仲間の姿がそこかしこに見える。
(ここは大蛙の生息地なのか。あっ、あそこの水辺に花が咲いている。あの花、確か夢見草だ。錬金術で触媒になったような)
物品鑑定でじっくり見てみると確かに触媒の材料になる花だった。
(採取したいけど大蛙が近くにいるな。どうしよう)
悩んでいると、影からクレナイの一部がうにょんと出てきて、ガッツポーズのような形になる。
「クレナイ、任せろってこと? じゃあ、よろしく頼む」
クレナイが私の影から出てくると、体を平べったくして、地面を滑るように進み出す。目で追えないぐらい早い。あっという間に一番近くの大蛙の背後に近づくと一閃。鋭く伸ばしたトゲで一瞬にして串刺しに。
そのままあっという間に沼の周りの大蛙を殺し尽くすと沼のなかに潜っていく。
中の様子を伺う前にクレナイは沼から出てくる。私の近くにより、ぴょんとひと跳ねして私の影に戻っていく。
「クレナイ、お前すごいな」
私はクレナイを誉めつつ、ゲームの時より断然高性能の従魔に唖然としてしまう。
気を取り直して大蛙の死体をインベントリにすべてしまうと夢見草に近づく。
「さて、触媒化するか。クレナイ、周りの警戒お願いね」
私は地面に膝をつき、両手で夢見草を挟むようにして触媒化の呪文を歌い始める。
歌を通して私の魔力と夢見草が反応して行く。
魔力が段々と固定化され、夢見草の周りを繭のように囲っていく。
一際高音で歌い上げると魔力が急激に固定化し、次の瞬間お洒落な瓶詰めになった夢見草が完成した。
物品鑑定をしてみると、ちゃんと触媒:夢見草となっている。
「出来た! これで眠り薬が作れる。眠り薬はゲーム時代は敵に当てると耐性なしでは15%の確率で睡眠の状態異常を与えられた。初期の出来ることが少ない錬金術師の数少ない活躍の場だったな。今はクレナイが無双状態だからいいけど、今後は絶対活躍の場があるはず。帰ったら量産しとこ。」
新しく手に入れた触媒を大切にインベントリにしまい、町に向かった。
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