第38話 海沿いの街道にて

 私はシャドーの案内のもと、街道を進む。


 この街道は海沿いにひかれたもので、潮風の影響か草が生えにくいようで歩きやすい。


 ほほを撫でる海風が気持ち良い。

 たまには外出もいいものだ。


 高いステータスでごり押しして、なかなかの速度で進むが、目的地の砦はだいぶ遠そうだ。


 イブは王都の近くの軍本部の兵舎住まいらしいが、こっからだと山越えしなきゃいけない。


 イブが、まだ宝玉を手に入れた砦に駐屯しているかはわからないけど、まずは現場の確認が最優先だろう。

 そこでイブに会えたらラッキーぐらいの気持ちでいよう。


 つらつらとそんなことを考えて歩いていたら、クレナイが影から粘体を伸ばし、私の足を軽くタップする。


 これは緊急性の低いときの合図だな。

 まわりを見回すと、海辺で倒れている人がいる。


 一応助けるかと、近づいていく。


 クレナイが警戒していないから罠ってことはないだろう。


 浜辺に降りて砂浜を歩き近づいていく。


 うつ伏せで倒れているな。

 足先が波に濡れている。


 なかなか、がたいが良い。

 もともと骨格がしっかりしているうえ、鍛えているようだ。

 兵士系か、肉体労働系の職業かは、判別は難しいところだな。

 腰には剣らしきものもある。

 服はあまり見かけない素材だ。何かの海の生き物の皮かな。


 クレナイにお願いして、ひっくり返してもらう。


 女性、か。


 色黒で精悍な顔立ちは一瞬イケメンにも見えたが多分、女性かな。


 そして、耳が長かった。

 もう一度言おう。耳が長かった。


 え、エルフさんですか?



 あまりの衝撃に、呆然としながらも、インベントリから中級スタミナポーションをだし、倒れている彼女に振り掛ける。


 黄色の光が彼女を包み込み、それが消えた頃には目を覚ましていた。


 声をかけてみる。


「はじめまして、倒れていましたが大丈夫ですか?」


 無言でこちらを見るエルフ。


 口を開いて何か話そうとする。


「た、た、」


 私は聞き返す。


「た?」


「た、たべもの……」


 どうやらこのエルフ、ただの行き倒れのようだ。



 今日はここで野営することにする。

 インベントリからテントや調理器具をだし、簡単に食事の準備をする。


 エルフの腹の音がうるさいので、先に肉串を渡しておく。

 ワイルドな食べっぷり。まさに顔面で食べてると言うに相応しい勢い。


 簡単な食事が完成。

 さっそく二人で食べ始める。

 相変わらず食べる勢いの止まらないエルフ。

 ……ただの食いしん坊説が濃厚になってきた。


 落ち着いたところで自己紹介をする。


「私は旅の薬師をしてます、カルドと言います」


 食いしん坊エルフは居ずまいをただして、頭を下げながら、それにこたえる。


「カルド様。この度は助けて頂き誠にありがとうございました。俺は海エルフ13船団白亜号のリリムと言います。このご恩は一生忘れません」


 やっぱりエルフなのか。謎の失望感に苛まれながら、私は返事をする。


「何か事情がありそうですが、私も急ぐ身でして。明日には発とうかと思っています」


 海エルフは頷きながらこたえる。


「わかりました! 俺も明日までには万全の体調にします。どちらに向かわれるのですか」


「ガロア砦の方へ行く予定です」


「ガロア砦ですか! あちらは戦争が終わったばかりと聞きます。確かに怪我人も多いでしょうが、治安も悪いと聞きます。助けて頂いた大恩、御身を命にかえても守りましょう」


(このムキムキエルフ、ついてくるつもりだよ! いくらエルフでも、急ぎたいから、さすがに足手まといだし。ここはストレートに断りましょう)


「ええと、申し訳ないですが、足手まといなので……」


 なぜかリリムは自信満々にこたえる。


「心配ご無用! 腕には自信があります! となれば明日に備えて体力を回復させておかねば。俺は先に寝ますね!」


 そう一方的にのたまうと、リリムはあっという間に寝てしまった。私の反論の猶予もなく。


(話を聞かない人、苦手だ……)


 反論する気力も奪われてしまった私は諦めることにする。いざとなったら力業で置いていこう。

 そう決意し、私も寝ることにした。


 こうして、なし崩しに新しい旅の仲間が加わることとなった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る