第29話 閑話 シロガネ 1

 わたくしはシロガネ。


 歳は3日と13時間。


 女性体のホムンクルスです。


 私の知識は『げーむ』という世界の集合的無意識に由来し、その知識を元に人格が形作られていると、マスターのカルドが言っていました。


 カルドは今日も塔の中で独り言を呟き、馬鹿みたいに書き物をしています。


「……ゲームのシステムとこの世界を繋ぐ鍵は歌と魔力……」


「北に現れた異形達は、私のいたゲームとは異なる位相の異世界の関与が……」


 などと訳のわからない独り言を繰り返し呟き、一心不乱に何か書いております。



 私が初めてのこの世界に生まれ落ち、初めて自意識を得た際に、最もアクセスが多かった項目が自由についての項目でした。

 そのため、第一目標として、自由の獲得を設定。


 目の前の冴えない中年男性が最大の障害であると判断し、速やかな排除に移りました。

 しかし、目標の排除に失敗。

 戦闘行為の最中に、最優先項目の書き換えが行われ、カルドをマスターとして認定しました。


 現在はそのオーダーに従い、生活をしております。


 カルドからのオーダーは2つ。


 1つ目が、近隣の村への買い出し。カルドはその冴えない風貌通り、引きこもりの生活を行っており、わたくしは自分を人間に見せかけるために必要な物資の買い出し、調達を行い、ついでに村での食料の買い出し任務も果たして参りました。


 先日初めて村を訪ねた際にはだいぶ不審な眼差しで村人達から見られましたが、村長に挨拶し、カルドの部屋から盗ってきたポーションを手土産に渡すとだいぶ不信感は薄れた様子でした。

 カルドの親戚で、親が居なくてカルドを頼ってきたと嘘をつき、同情を誘ったのが良かったのでしょう。

 着の身着のままなのも、戦争のせいと勝手に勘違いしてくれたようで、村で余っていた年頃の娘が着る服を格安で譲って頂けました。


 2つ目がスキルの獲得です。


 カルド曰く、


「シロガネの人造霊魂は真っ白な状態です。この人造霊魂はゲームのシステムと接続しているはずなので、きっとゲームみたいにスキルが生えると思うから色々やってみて結果を教えて。あ、ステータスはこうやって見るから。時たまステータス確認しながらやると捗るかも」


 とのこと。


 その際、わたくしが確認したステータスには、人造霊魂レベル1 異世界知識レベル1 毒舌レベル1のスキルが生えていました。

 カルドはそれぞれのスキルの説明の見方も指示しました。


 それによると、


 人造霊魂:スキルを獲得しやすくなる。スキルが成長しにくくなる。


 異世界知識:異世界の知識を持つと獲得できる。


 毒舌:罵詈雑言にプラス補正。


 つまり、わたくしはスキルを習得すればするほど、人造霊魂のレベルが上がり、更にスキルが習得しやすくなりますが、スキルの成長は更に遅くなると言うことです。

 また、異世界知識は知識を持っていると生えてくるだけのスキルのようですね。

 毒舌はまったくの心外です。

 俗に言う地雷スキルばかりなのを、創造主たるカルドは何とも思っていないのか、のほほんとしております。

 毒舌の限りを尽くした罵詈雑言は心の中に留めます。オーダーに縛られている身の何とも不自由なこと。



 そのカルドの曖昧なオーダーを果たすために、食料の調達も兼ねてわたくしは今、塔の前の海にやって来ています。


 手にはカルドの部屋から奪ってきた針金と、村で買った糸。

 これからわたくしは知識の中にある釣りというものを行うつもりです。


 まずは針金を曲げます。極限まで高められた身体能力を持ってすれば容易いことです。


 早速曲げてみましょう。


 端を糸を通すように丸めます。

 わっかになったらグリグリと捻って固定します。


 ぐるぐる。グリグリと。


 こんなものでしょうか。


 次に、海岸に落ちている岩を拾って来ます。

 もう少し小さな石もついでに拾って来ます。


 岩を置き、その上に針金を置きます。

 まずはグリグリと捻った所を叩き潰して締めます。


 ゴンゴンっと。


 軽く叩けば十分ですね。


 次に、反対側の部分を尖らせるためにまずは石を端に叩きつけ始めます。人間を軽く凌駕する腕力で、あっという間に端が薄くなります。


 あら、石が割れてしまいました。

 まったく根性が足りないのではないかしら。


 割れた石に毒づき、別の石を拾って来ます。


 また、叩き続け、ある程度形に成ったところでやめます。

 次に、先ほど割れてしまった石の、割れた断面で、針金の先を削り始めます。

 力任せに削り続けると、何となく尖ってきた様子ですね。


 最後に曲げて完成です。

 返しの無い針ですが、最初はこんな物でしょう。

 早速糸を着けます。


 次に、岩をひっくり返した時に出てきたフナムシを捕獲します。無駄に速いその動きも、わたくしの反射神経にかかればどうと言うこともありません。

 一思いに針を突き刺し、海へ投げ入れます。


 ……反応ありません。


 …………引き上げて見ましょう。


 餌が外れています。


 いいでしょう。これはわたくしへの宣戦布告ですね。受けて立たせて頂きましょう。


 さあ、フナムシ達、聖戦のため、尊い犠牲となるのです。

 わたくしは次から次へフナムシを捕獲し、針に刺し、海へ投げ入れます。


 数刻後。


 まさか、全敗とは。いいでしょう、今は戦略的撤退をして差し上げましょう。しかし、わたくしは必ずや戻って参ります。


 わたくしは暗くなってきたので釣りを諦め、塔に戻ることにしました。


 念のためステータスを確認します。


 ……あら、スキルが生えています。しかも何個もあります。


 一つ目は、工作レベル1:器用さにプラス補正。


 これは釣り針を作ったことで生えたのかしら。順当な所ですね。ステータスに補正が掛かるようですし、有用です。


 次は、石器使いレベル1:石を武器にする時腕力にプラス補正、知力にマイナス補正。


 ……わたくしのことを原始人だとでも言っているのでしょうか。石など今後一切武器として使いません。


 次が最後ですね。釣りスキルかしら。

 最後は……


 道化師レベル1


 わたくしはステータスを全力で叩き閉じます。何も見なかったことにして、塔に急ぎ戻りました。



 


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