第30話 閑話 シロガネ 2
塔に戻ってまいりました。
しかし、なんて失礼なんでしょう。
あの後こっそりステータスを確認しましたが、出てきたのがこちらです。
道化師レベル1:笑いをとりやすくなる。
わたくしは、嗤うことはあっても、笑われることなど無いと言うのに。
気を取り直し、夕食の準備を始めます。
カルドは放っておくと、インベントリに保存している肉串を食べるだけで、ずっと錬金術や書き物を続けているようです。
カルドの分は不要でしょう。
スキルの獲得を目指し、気合いを入れます。
まずは貯蔵庫に行き、村から手に入れた物、近隣で採取してきたものから材料を選びます。
わたくしの記憶と照らし合わせ、野菜スープを作ることにします。
根菜と葉物を選び、次は保冷庫に入っている鶏肉を取り出して来ます。
基本的な調理器具はカルドが錬金術で作成済みなので、勝手に使います。
まずは根菜の皮を剥きましょう。
ナイフを右手に固定し、根菜を回すように刃に当てていけば。
……不思議ですこと。粉々になりました。
まるで私が力加減できずに握りつぶしてしまったみたいではないですか。
なんと失礼な根菜でしょう。
食料を無駄にするのはよくないので、隠し味として、そのまま鍋に入れます。
隠し味です。隠し味。
新しい根菜を取ってくると、今度は皮はよく洗ってそのまま切り始めます。
左手を丸めて。ナイフを狙い定め。
いざ、覚悟っ!
勢いよく、根菜を両断できました。
木のまな板が割れてしまっています。
どうやら古かったようですね。
その後も順調に調理を続け、いよいよ火にかけます。
コンロもカルドが作ってあるので、簡単ですね。
火にかけて、後は待つばかり。
その間にステータスを確認することにします。
今回は上手く出来た自信があります。
これは料理スキルが生えているに違いありません。
早速見てみます。
新しいスキルは……
アイアンクローレベル1:握力にプラス補正
以上。
……この世界はなんと理不尽なのでしょう。バグっているのではないでしょうか。
私がこの世の不条理に思いを馳せていると、突然鍋が甲高い音とともに振動し始めます。
とっさに伏せます。
その瞬間、鍋が吹き飛びます。
飛び散る野菜達、スープが宙を舞い、飛び散ります。
私は伏せた姿勢から鍋から遠ざかるように飛び、そのまま横転して更に離れます。
何とか難を逃れましたね。
私のいた所にも野菜スープの残骸が飛び散っています。
この世界は野菜スープが爆発するのですね。なんと危険に満ちているのでしょうか。
私はゆっくりと野菜スープの残骸と鍋に近づきます。
それ以上怪しい動きが無いことを確認すると、片付け始めます。
片付けをする合間にステータスを確認してみます。
あら、新しいスキルです。
今度こそ料理スキルでしょうか。先ほどは作りかけだったからまだ出ていなかったのかしら。
いそいそと確認すると。
爆弾魔レベル1:魔力を爆弾化し、爆発させることができる。
このステータスを爆発させてやりましょうか。
結局その日はカルドの肉串を奪い、夕食を済ませました。
翌日。
今日こそは魚達にリベンジしなくては。
わたくしは朝早くから海に来ておりました。
手には昨日作った釣り針と糸。
早速フナムシを確保し、釣りをしようとすると、人影が見えます。
先客がいるようです。
こういう時はご挨拶しなければ。それが文明ある人間としての振る舞いです。
私は声をかけるために近づきます。
海辺に座り込んでいたのは、小さな女の子でした。
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